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〘108㌻〙

第1章

1 われらのうち[*]成󠄃りしこと物語ものがたりにつき、はじめよりの目擊者もくげきしゃにして、[*或は「篤く信ぜられたる事」と譯す。] 2 御言みことば役者えきしゃとなりたる人々ひとびとの、われらにつたへし、のままを、つらねんと、けしものあまたあるゆゑに、 3 われすべてのこと最初さいしょより詳細つまびらか尋󠄃たづねたれば、 4 テオピロ閣下かくかよ、なんぢをしへられたることたしかなるをさとらせんために、これがついでたゞしてかきおくるはことおもはるるなり。

5 ユダヤのわうヘロデのとき、アビヤのくみ祭司さいしに、ザカリヤというひとあり。そのつまはアロンのすゑにてをエリサベツといふ。 6 二人ふたりながらかみ前󠄃まへたゞしくして、しゅ誡命いましめ定規さだめとを、みなかけなくおこなへり。 7 エリサベツ石女うまずめなれば、かれらになし、また二人ふたりともとしすゝみぬ。

8 さてザカリヤそのくみ順番まはりあたりて、かみ前󠄃まへ祭司さいしつとめおこなふとき、 9 祭司さいし慣例ならはしにしたがひて、くじをひきしゅ聖󠄃所󠄃せいじょりて、かうくこととなりぬ。 10 かうくときたみむれみなそとにありていのりゐたり。 11 ときしゅ使󠄃つかひあらはれて、香壇かうだんみぎちたれば、 12 ザカリヤこれて、こゝろさわおそれしゃうず。 13 御使󠄃みつかひいふ『ザカリヤよおそるな、なんぢねがひかれたり。なんぢつまエリサベツ男子なんしまん、なんぢそのをヨハネとづくべし。 14 なんぢに喜悅よろこび歡樂たのしみとあらん、又󠄂またおほくのひともそのうまるるをよろこぶべし。 15 このしゅ前󠄃まへおほいならん、また葡萄酒ぶだうしゅさけとをまず、ははたいづるや聖󠄃せいれいにて滿みたされん。
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16 またおほくのイスラエルのらを、しゅなるかれらのかみかへらしめ、 17 かつエリヤのれい能力ちからとをもて、しゅ前󠄃まへ往󠄃かん。これ父󠄃ちちこゝろに、戻󠄃もどれるもの義人ぎじん聰明さときかへらせて、とゝのへたるたみしゅのためにそなへんとてなり』 18 ザカリヤ御使󠄃みつかひにいふ『なにりてかことあるをらん。われ老人としよりにて、つまもまたとしすゝみたり』 19 御使󠄃みつかひこたへてふ『われはかみ御前󠄃みまへつガブリエルなり、なんぢかたりてこの音󠄃信おとづれげんため遣󠄃つかはさる。 20 よ、ときいたらば、かなら成󠄃就じゃうじゅすべきことばしんぜぬにり、なんぢものへずなりて、これらのこと成󠄃まではかたることあたはじ』 21 たみはザカリヤをちゐて、聖󠄃所󠄃せいじょうちひさしくとどまるをあやしむ。 22 遂󠄅つひきたりたれどかたることあたはねば、かれらその聖󠄃所󠄃せいじょうちにて異象いしやうたることをさとる。ザカリヤは、ただくびにてしめすのみ、なほおふしなりき。 23 かくつとめ滿ちたれば、いへかへりぬ。〘79㌻〙

24 のちそのつまエリサベツみごもりて五月󠄃いつつきほどかくれをりてふ、 25しゅ、わがはぢひとなか雪󠄃すゝがせんとて、われ顧󠄃かへりたまふときは、たまふなり』

26 その六月󠄃むつきめに、御使󠄃みつかひガブリエル、ナザレといふガリラヤのまちにをる處女をとめのもとに、かみより遣󠄃つかはさる。 27 この處女をとめはダビデのいへのヨセフといふひと許嫁いひなづけせしものにて、をマリヤとふ。 28 御使󠄃みつかひ處女をとめもとにきたりてふ『めでたし、めぐまるるものよ、しゅなんぢとともいませり[*]』[*異本「なんぢば女のうちにて惠まるる者なり」との句を加ふ。] 29 マリヤこのことばによりてこゝろいたくさわぎ、かゝ挨拶あいさつ如何いかなることぞとおもめぐらしたるに、 30 御使󠄃みつかひいふ『マリヤよ、おそるな、なんぢかみ御前󠄃みまへめぐみたり。 31 よ、なんぢみごもりて男子なんしまん、をイエスとづくべし。 32 かれおほいならん、至高者いとたかきもの稱󠄄となへられん。またしゅたるかみ、これに父󠄃ちちダビデの座位くらゐをあたへたまへば、
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33 ヤコブのいへ永遠󠄄とこしへをさめん。そのくに終󠄃をはることなかるべし』 34 マリヤ御使󠄃みつかひふ『われいまひとらぬに、如何いかにしてことのあるべき』 35 御使󠄃みつかひこたへてふ『聖󠄃せいれいなんぢにのぞみ、至高者いとたかきもの能力ちからなんぢをおほはん。ゆゑなんぢむところの聖󠄃せいなるものは、かみ稱󠄄となへらるべし。 36 よ、なんぢの親族しんぞくエリサベツも、としいたれど、男子なんしはらめり。石女うまずめといはれたるものなるに、いまみごもりてはや六月󠄃むつきになりぬ。 37 それかみことばにはあたはぬ所󠄃ところなし』 38 マリヤふ『よ、われはしゅ婢女はしためなり。なんぢことばのごとく、われ成󠄃れかし』つひに御使󠄃みつかひ、はなれりぬ。

39 そのころマリヤちて、山里やまざと急󠄃いそ往󠄃き、ユダのまちにいたり、 40 ザカリヤのいへりてエリサベツに挨拶あいさつせしに、 41 エリサベツ、その挨拶あいさつくや、胎內たいないにて躍󠄃をどれり。エリサベツ聖󠄃せいれいにて滿みたされ、 42 こゑたからかによばはりてふ『をんなのうちにてなんぢ祝福しくふくせられ、そのたいもまた祝福しくふくせられたり。 43 わがしゅははわれにきたる、われなにによりてかこれし。 44 よ、なんぢの挨拶あいさつこゑ、わがみゝるや、胎內たいないにてよろこびをどれり。 45 しんぜしもの幸福さいはひなるかな、しゅかたたまふことはかなら成󠄃就じゃうじゅすべければなり』 46 マリヤふ、 『わがこゝろしゅあがめ、 47 わがれいは、わが救主すくひぬしなるかみよろこまつる。 48 その婢女はしためいやしきをも顧󠄃かへりたまへばなり。 よ、いまよりのちよろづひと、われを幸福さいはひとせん。 49 全󠄃能者ぜんのうしゃ、われにおほいなることしたまへばなり。 その御名みな聖󠄃せいなり、〘80㌻〙 50 その憐憫あはれみ代々よよ かしこおそるるもののぞむなり。 51 かみ御腕みうでにて權力ちからをあらはし、[*]こゝろおもひたかぶるものらし、[*或は「高ぶる者をその心の企圖󠄃にて散らし」と譯す。] 52 權勢いきほひあるもの座位くらゐよりおろし、 いやしきものたかうし、
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53 飢󠄄ゑたるものきものに飽󠄄かせ、 めるもの空󠄃むなしくらせたまふ。 54 またわれらの先祖せんぞたまひしごとく、 55 アブラハムと、そのすゑとにたいする憐憫あはれみを、永遠󠄄とこしへ忘󠄃わすれじとて、 しもべイスラエルをたすたまへり』 56 かくてマリヤは、三月󠄃みつきばかりエルザベツとともりて、おのいへかへれり。

57 さてエリサベツときみちて男子なんしみたれば、 58 その最寄もよりのもの親族しんぞくものどもしゅおほいなる憐憫あはれみを、エリサベツにたまひしことをきて、かれとともによろこぶ。 59 八日やうかめになりて、割󠄅禮かつれいおこなはんとて人々ひとびときたり、父󠄃ちちちなみてザカリヤとづけんとせしに、 60 ははこたへてふ『いな、ヨハネとづくべし』 61 かれらふ『なんぢの親族しんぞくうちにはをつけたるものなし』 62 しかして父󠄃ちちかうべにてしめし、いかにづけんとおもふか、ひたるに、 63 ザカリヤ書板かきいたもとめて『そのはヨハネなり』ときしかば、みなあやしむ。

64 ザカリヤのくちたちどころにひらけ、したゆるみ、ものいひてかみめたり。 65 最寄もより住󠄃ものみなおそれをいだき、又󠄂またすべてこれのことあまねくユダヤの山里やまざとはやされたれば、 66 ものみなこれこゝろにとめてふ『この如何いかなるものにか成󠄃らん』しゅかれとともりしなり。 67 かく父󠄃ちちザカリヤ聖󠄃せいれいにて滿みたされ預言よげんして 68むべきかな、しゅイスラエルのかみ、 そのたみ顧󠄃かへりみて贖罪あがなひをなし、 69 我等われらのためにすくひつのを、 そのしもべダビデのいへたまへり。 70 これぞいにしへより聖󠄃せい預言者よげんしゃくちをもてたまひしごとく、 71 われらをあたより、すべわれらを憎にくものより、いだしたまふすくひなる。 72 われらの先祖せんぞ憐憫あはれみをたれ、その聖󠄃せいなる契󠄅約けいやくおぼし、 73 われらの先祖せんぞアブラハムにたまひし御誓みちかひ忘󠄃わすれずして、〘81㌻〙
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74 われらをあたよりすくひ、 生涯しゃうがいしゅ御前󠄃みまへに、 75 聖󠄃せいとをもておそれなくつかへしめたまふなり。 76 幼兒をさなごよ、なんぢは至高者いとたかきもの預言者よげんしゃ稱󠄄となへられん。 これしゅ御前󠄃みまへさきだちゆきて道󠄃みちそなへ、 77 しゅたみつみゆるしによるすくひらしむればなり。 78 これわれらのかみふか憐憫あはれみによるなり。 この憐憫あはれみによりて、朝󠄃あさひかりうへよりのぞみ、 79 暗󠄃黑くらきかげとにするものをてらし、 われらのあし平󠄃和へいわみち導󠄃みちびかん』 80 かく幼兒をさなごやゝ成󠄃長せいちゃうし、そのれいつよくなり、イスラエルにあらはるるまで荒野あらのにゐたり。

第2章

1 そのころ天下てんかひと戶籍こせきかすべき詔令みことのりカイザル・アウグストよりづ。 2 この戶籍こせき登錄とうろくは、クレニオ、シリヤの總󠄂督そうとくたりしときおこなはれしはじめのものなり。 3 さてひとみな戶籍こせきかんとて、各自おのおのその故郷ふるさとかへる。 4 ヨセフもダビデの家系いへすぢまた血統ちすぢなれば、 5 旣󠄁すではらめる許嫁いひなづけつまマリヤとともに、戶籍こせきかんとて、ガリラヤのまちナザレをでてユダヤにのぼり、ダビデのまちベツレヘムといふところいたりぬ。 6 此處ここるほどに、マリヤ月󠄃つき滿ちて、 7 初子うひごをうみこれぬの包󠄃つゝみて馬槽うまぶねさせたり。旅󠄃舍はたごやにをるところなかりしゆゑなり。

8 この野宿のじゅくしてよるむれまもりをる牧者ひつじかひありしが、 9 しゅ使󠄃つかひそのかたはらにち、しゅ榮光えいくわうその周󠄃圍󠄃まはりてらしたれば、いたおそる。 10 御使󠄃みつかひかれらにふ『おそるな、よ、このたみ一般いっぱんおよぶべき、おほいなる歡喜よろこび音󠄃信おとづれわれなんぢらにぐ、 11 今日けふダビデのまちにてなんぢらのため救主すくひぬしうまれたまへり、これしゅキリストなり。 12 なんぢらぬのにて包󠄃つゝまれ、馬槽うまぶねしをる嬰兒みどりごん、これそのしるしなり』 13 たちまちあまたのてん軍勢ぐんぜい御使󠄃みつかひくははり、かみ讃美さんびしてふ、
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14[*]いとたかところには榮光えいくわうかみにあれ。 には平󠄃和へいわしゅよろこたまひとにあれ』[*異本「いと高き處には榮光、神に、地には平󠄃和、人には惠あれ」とあり。] 15 御使󠄃みつかひたちさりててん往󠄃きしとき、牧者ひつじかひたがひにかたる『いざ、ベツレヘムにいたり、しゅしめたまひし起󠄃おこれることん』 16 すなは急󠄃いそ往󠄃きて、マリヤとヨセフと、馬槽うまぶねしたる嬰兒みどりごとに尋󠄃たづねあふ。〘82㌻〙 17 旣󠄁すでて、このにつき御使󠄃みつかひかたりしことをげたれば、 18 ものはみな牧者ひつじかひかたりしことをあやしみたり。 19 しかしてマリヤはすべこれのことをこゝろとどめておもまはせり。 20 牧者ひつじかひ御使󠄃みつかひかたりしごとくすべてのこときゝせしによりてかみあがめ、かつ讃美さんびしつつかへれり。

21 八日やうかみちて幼兒をさなご割󠄅禮かつれいほどこすべきとなりたれば、いま胎內たいない宿やどらぬさき御使󠄃みつかひづけしごとく、そのをイエスとづけたり。

22 モーセの律法おきてさだめたる潔󠄄きよめ滿ちたれば、かれ幼兒をさなごたづさへて、エルサレムにのぼる。 23 これはしゅ律法おきてに『すべて初子うひごうまるる男子なんししゅにつける聖󠄃せいなるもの稱󠄄となへらるべし』としるされたるごとく、幼兒をさなごしゅさゝげ、 24 またしゅ律法おきてに『山鳩やまばとひとつがひあるひはいへ鴿ばとひな』とひたるに遵󠄅したがひて、犧牲いけにへそなへんためなり。 25 よ、エルサレムにシメオンといふひとあり。このひとかつ敬虔けいけんにしてイスラエルのなぐさめられんことを望󠄇のぞむ。聖󠄃せいれいそのうへいます。 26 また聖󠄃せいれいしゅのキリストをぬうちはずとしめされたれしが、 27 のとき、御靈みたまかんじてみやる。兩親ふたおやそのイエスをたづさへ、こののために律法おきて慣例ならはし遵󠄅したがひて、おこなはんとてきたりたれば、 28 シメオン、イエスをりいだき、かみめてふ、 29しゅよ、いまこそ御言みことばしたがひて しもべやすらかに逝󠄃かしめたまふなれ。 30 わがは、はやしゅすくひたり。 31 これもろもろのたみ前󠄃まへそなたまひしもの 32 異邦󠄆人いはうじんてらひかり御民みたみイスラエルの榮光えいくわうなり』
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33 かく幼兒をさなごきてかたることを、父󠄃ちちははあやしみたれば、 34 シメオンかれらをしくしてははマリヤにふ『よ、この幼兒をさなごは、イスラエルのおほくのひとあるひたふれ、あるひ起󠄃たんために、また逆󠄃さからひをくるしるしのためにかる。 35 ――つるぎなんぢのこゝろをも貫󠄄つらぬくべし――これはおほくのひとこゝろおもひあらはれんためなり』

36 こゝにアセルのやからパヌエルのむすめに、アンナといふ預言者よげんしゃあり、としいたくゆ。處女をとめのとき、をっと適󠄄きて[*]しちねんともにり、[*或は「七年ともにをりて寡婦󠄃となり今は八十四歳なり」と譯す。] 37 はち十四年じふよねん寡婦󠄃やもめたり。みやはなれず、よるひるも、斷食󠄃だんじき祈禱きたうとをしてかみつかふ。 38 このときすすみりて、かみ感謝󠄃かんしゃし、またすべてエルサレムの拯贖あがなひちのぞむひとに、幼兒をさなごのことをかたれり。

39 さてしゅ律法おきて遵󠄅したがひて、すべてのことはたしたれば、ガリラヤにかへり、おのまちナザレにいたれり。〘83㌻〙

40 幼兒をさなごやゝ成󠄃長せいちゃうして健󠄄すこやかになり、智慧󠄄ちゑみち、かつかみめぐみそのうへにありき。

41 かくてその兩親ふたおや過󠄃越すぎこしまつりには年每としごとにエルサレムに往󠄃きぬ。 42 イエスの十二じふにさいのとき、まつり慣例ならはし遵󠄅したがひてのぼりゆき、 43 まつり終󠄃をはりてかへとき、そのイエスはエルサレムにとゞまりたまふ。兩親ふたおやこれらずして、 44 道󠄃伴󠄃みちづれのうちにるならんとおもひ、一日いちにちゆきて、親族しんぞく知邊󠄎しるべのうちを尋󠄃たづぬれど、 45 遇󠄃はぬにりてまたたづねつつエルサレムにかへり、 46 三日みっかののち、みやにて敎師けうしのなかにし、かつき、かつひゐたまふに遇󠄃ふ。 47 ものみなそのさときこたへとをあやしむ。 48 兩親ふたおやイエスをて、いたくをどろき、ははふ『よ、なにゆゑかかることわれらにしぞ、よ、なんぢ父󠄃ちちわれうれひて尋󠄃たづねたり』 49 イエスひたまふなにゆゑわれを尋󠄃たづねたるか、われ[*]わが父󠄃ちちいへるべきをらぬか』[*或は「我が父󠄃の事を務むべきを知らぬか」と譯す。]
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50 兩親ふたおやはそのかたりたまふことさとらず。 51 かくてイエスかれとともにくだり、ナザレに往󠄃きてしたがつかへたまふ。ははこれらのことをことごとくこゝろをさむ。

52 イエス智慧󠄄ちゑ[*]のたけもいやまさかみひととにますますあいせられたまふ。[*或は「齡」と譯す。]

第3章

1 テベリオ・カイザル在位ざいゐじふねんポンテオ・ピラトは、ユダヤの總󠄂督そうとく、ヘロデはガリラヤ分󠄃封ぶんばう國守こくしゅ、その兄弟きゃうだいピリポは、イツリヤおよびテラコニテの分󠄃封ぶんばう國守こくしゅ、ルサニヤはアビレネ分󠄃封ぶんばう國守こくしゅたり、 2 アンナスとカヤパとはだい祭司さいしたりしとき、かみことば荒野あらのにてザカリヤのヨハネにのぞむ。 3 かくてヨルダンがは邊󠄎ほとりなる四方しはうにゆき、つみゆるしさする悔改くいあらためのバプテスマを宣傳のべつたふ。 4 預言者よげんしゃイザヤのことばふみに 『荒野あらのよばはるものこゑす。 「しゅ道󠄃みちそなへ、そのみちすじをなほくせよ。 5 もろもろのたにうづめられ、もろもろのやまをかとは平󠄃たひらげられ、 まがりたるはなほく、けはしきはたひらかなるみちとなり、 6 ひとみなかみすくひん」』としるされたるがごとし。 7 さてヨハネ、バプテスマをけんとてできたる群衆ぐんじゅうにいふ『まむしすゑよ、なんぢらに、きたらんとする御怒みいかり避󠄃くべきことしめしたるぞ。〘84㌻〙 8 さらば悔改くいあらため相應ふさはしきむすべ。なんぢら「われらの父󠄃ちちにアブラハムあり」とこゝろのうちにはじむな。われなんぢらにぐ、かみはよくこれらのいしよりアブラハムの起󠄃おこ得給えたまふなり。 9 をのははやかる。ればすべむすばぬは、られてれらるべし』 10 群衆ぐんじゅうヨハネにひてふ『さらばわれなにすべきか』 11 こたへてふ『ふたつの下衣したぎをもつものは、有󠄃たぬもの分󠄃あたへよ。食󠄃物しょくもつ有󠄃ものもまたしかせよ』 12 取税人しゅぜいにんもバプテスマをけんとてきたりてふ『よ、われなにすべきか』 13 こたへてふ『さだまりたるもののほか、なにをもはたるな』
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14 兵卒へいそつもまたひてふ『われらはなにすべきか』こたへてふ『ひとおびやかし、またうったふな、おの給料きふれうをもてれりとせよ』

15 たみ望󠄇のぞみゐたれば、みなこゝろうちにヨハネをキリストならんかとろんぜしに、 16 ヨハネすべてのひとこたへてふ『われみづにてなんぢらにバプテスマをほどこす、されどわれよりも能力ちからあるものきたらん、われはそのくつひもくにもらず。かれ聖󠄃せいれいとにてなんぢらにバプテスマをほどこさん。 17 にはちたまふ。禾場うちばをきよめ、むぎくら納󠄃をさめんとてなり。しかしてから消󠄃えぬにてきつくさん』

18 ヨハネこのほかなほ、さまざまの勸󠄂すゝめをなして、たみ福音󠄃ふくいん宣傳のべつたふ。 19 しかるに國守こくしゅヘロデ、その兄弟きゃうだいつまヘロデヤのことにつき、又󠄂またそのおこなひたるすべてのしきことにつきて、ヨハネにめられたれば、 20 更󠄃さらまたひとつのしきことくはへて、ヨハネをひとやぢこめたり。

21 たみみなバプテスマをけしとき、イエスもバプテスマをけていのりゐたまへば、てんひらけ、 22 聖󠄃せいれいかたちをなして鴿はとのごとくうへ降󠄄くだり、かつてんよりこゑあり、いはく『なんぢはいつくしむなり、われなんぢをよろこぶ』 23 イエスの、をしへはじたまひしは、としおほよそ三十さんじふときなりき。ひとにはヨセフのおもはれたまへり。ヨセフの父󠄃ちちはヘリ、 24 そのさきはマタテ、レビ、メルキ、ヤンナイ、ヨセフ、 25 マタテヤ、アモス、ナホム、エスリ、ナンガイ、 26 マハテ、マタテヤ、シメイ、ヨセク、ヨダ、 27 ヨハナン、レサ、ゾロバベル、サラテル、ネリ、 28 メルキ、アデイ、コサム、エルマダム、エル、 29 ヨセ、エリエゼル、ヨリム、マタテ、レビ、 30 シメオン、ユダ、ヨセフ、ヨナム、エリヤキム、
 116㌻ 
31 メレヤ、メナ、マタタ、ナタン、ダビデ、 32 エツサイ、オベデ、ボアズ、サラ、ナアソン、 33 アミナダブ、アデミン、アルニ、エスロン、パレス、ユダ、〘85㌻〙 34 ヤコブ、イサク、アブラハム、テラ、ナホル、 35 セルグ、レウ、ペレグ、エベル、サラ、 36 カイナン、アルパクサデ、セム、ノア、ラメク、 37 メトセラ、エノク、ヤレデ、マハラレル、カイナン、 38 エノス、セツ、アダムにいたる。アダムはかみなり。

第4章

1 さてイエス聖󠄃せいれいにて滿ち、ヨルダンがはよりかへ荒野あらのにて、四十しじふにちのあひだ御靈みたま導󠄃みちびかれ、 2 惡魔󠄃あくまこゝろみられたまふ。このあひだなにをも食󠄃くらはず、數󠄄かず滿ちてのち餓󠄃たまひたれば、 3 惡魔󠄃あくまいふ『なんぢかみならばいしめいじてパンとらしめよ』 4 イエスこたへたまふ『「ひとくるはパンのみにるにあらず」としるされたり』 5 惡魔󠄃あくままたイエスをたづさへのぼりて瞬間またゝくま天下てんかのもろもろのくにしめしてふ、 6 『このすべての權威󠄂けんゐ國々くに〴〵榮華えいぐわとをなんぢあたへん。われこれをゆだねられたれば、ほっするものあたふるなり。 7 このゆゑにもし前󠄃まへはいせば、ことごとくなんぢ有󠄃ものとなるべし』 8 イエスこたへてひたまふ『「しゅなるなんぢかみはいし、ただこれにのみつかふべし」としるされたり』 9 惡魔󠄃あくままたイエスをエルサレムに連󠄃れゆき、みや頂上いたゞきたせてふ、『なんぢかみならば、此處ここよりおのしたげよ。 10 それは 「なんぢのため御使󠄃みつかひたちにめいじてまもらしめたまはん」 11 「かれらにてなんぢ支󠄂さゝへ、 そのあしいし打當うちあつることなからしめん」としるされたるなり』 12 イエスこたへてひたまふ『「しゅなるなんぢかみこゝろむべからず」とひてあり』

13 惡魔󠄃あくまあらゆる甞試こゝろみつくしてのちしばらくイエスをはなれたり。
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14 イエス御靈みたま能力ちからをもてガリラヤにかへたまへば、その聲聞きこえあまねく四方しはうひろまる。 15 かくしょ會堂くわいだうにてをしへをなし、すべてのひとあがめられたまふ。

16 さてそのそだてられたまひしところの、ナザレにいたれいのごとく、安息あんそくにち會堂くわいだうりて聖󠄃書せいしょまんとてたまひしに、 17 預言者よげんしゃイザヤのふみあたへたれば、ふみひもときて、かくしるされたる所󠄃ところ見出みいだたまふ。 18 しゅ御靈みたまわれにいます。 これわれあぶらそゝぎて貧󠄃まづしきもの福音󠄃ふくいんべしめ、 われ遣󠄃つかはして囚人めしうどゆるしることと、 盲人めしひゆることとをげしめ、壓󠄂おさへらるるものはなちて自由じいうあたへしめ、 19 しゅよろこばしきとし宣傳のべつたへしめたまふなり』〘86㌻〙 20 イエスふみき、かゝりのもの返󠄄かへしてたまへば、會堂くわいだうものみなこれそゝぐ。 21 イエスでたまふ『この聖󠄃書せいしょ今日けふなんぢらのみみ成󠄃就じゃうじゅしたり』 22 人々ひとびとみなイエスをめ、又󠄂またそのくちよりづるめぐみことばあやしみてふ『これヨセフのならずや』 23 イエスたま『なんぢらかならわれ俚諺ことわざきて「醫者いしゃよ、みづからおのれいやせ、カペナウムにて有󠄃りしといふ、われらがけることどもをおのさとなるにてもせ」とはん』 24 またたま『われ誠󠄃まことなんぢらにぐ、預言者よげんしゃおのさとにてよろこばるることなし。 25 われまことをもてなんぢらにぐ、エリヤのとき三年さんねん六个月󠄃ろくかげつてんとぢて、全󠄃地ぜんちおほいなる饑󠄃饉ききんなりしが、イスラエルのうちおほくの寡婦󠄃やもめありたれど、 26 エリヤは一人ひとりにすら遣󠄃つかはされず、ただシドンなるサレプタの一人ひとり寡婦󠄃やもめにのみ遣󠄃つかはされたり。 27 また預言者よげんしゃエリシヤのとき、イスラエルのうちおほくの癩病人らいびゃうにんありしが、一人ひとりだに潔󠄄きよめられず、ただシリヤのナアマンのみ潔󠄄きよめられたり』 28 會堂くわいだうにをるものみなこれきて憤恚いきどほり滿ち、 29 起󠄃ちてイエスをまちより逐󠄃いだし、そのまち建󠄄ちたるやまがけ往󠄃きて、おとさんとせしに、
 118㌻ 
30 イエスそのなか通󠄃とほりてたまふ。

31 かくてガリラヤのまちカペナウムにくだりて、安息あんそくにちごとにひとをしたまへば、 32 人々ひとびとそのをしへをどろきあへり。そのことば權威󠄂けんゐありたるにる。 33 會堂くわいだうけがれし惡鬼あくきれいかれたるひとあり、大聲おほごゑさけびてふ、 34 『ああ、ナザレのイエスよ、われらはなんぢとなにの關係かゝはりあらんや。われらをほろぼさんとて來給きたまふか。われはなんぢのたれなるをる、かみ聖󠄃者しゃうじゃなり』 35 イエスこれいましめてたまもだせ、そのひとよりでよ』惡鬼あくきそのひと人々ひとびとなかたふし、きずつけずしてづ。 36 みなをどろき、かたひてふ『これ如何いかなることばぞ、權威󠄂けんゐ能力ちからとをもてめいずれば、けがれし惡鬼あくきすらる』 37 こゝにイエスの噂󠄄うはさあまねく四方しはうひろまりたり。

38 イエス會堂くわいだうでて、シモンのいへたまふ。シモンの外姑しうとめおもきねつわづらたれば、人々ひとびとこれがためにイエスにねがふ。 39 そのかたはらにちてねつめたまへば、ねつりてをんなたちどころに起󠄃きてかれらにつかふ。

40 のいるときさまざまのやまひわづらものをもつひと、みなこれをイエスに連󠄃きたれば、一々いちいちそのうへきていやたまふ。 41 惡鬼あくきもまたおほくのひとよりでてさけびつつふ『なんぢはかみなり』これめてものふことをゆるたまはず、惡鬼あくきそのキリストなるをるにりてなり。〘87㌻〙

42 あく朝󠄃あさイエスでてさびしきところにゆきたまひしが、群衆ぐんじゅうたづねて御許みもといたり、その往󠄃くことをめんとせしに、 43 イエスたま『われ又󠄂またほかの町々まちまちにもかみくに福音󠄃ふくいん宣傳のべつたへざるをず、わが遣󠄃つかはされしはこれためなり』 44 かく[*]ユダヤのしょ會堂くわいだうにてをしへべたまふ。[*異本「ガリラヤ」とあり。]
 119㌻ 

第5章

1 群衆ぐんじゅうおし迫󠄃せまりてかみことばきをるとき、イエス、ゲネサレのみづうみのほとりにちて、 2 なぎさ艘󠄄さうふねせあるをたまふ、漁人すなどりびとふねをいでて網󠄄あみあらたり。 3 イエスその一艘󠄄いっさうなるシモンのふねり、かれ請󠄃ひてをかよりすこしくいださしめ、してふねうちより群衆ぐんじゅうをしへたまふ。 4 かた終󠄃へてシモンにひたまふ深處ふかみりいだし、網󠄄あみおろしてすなどれ』 5 シモンこたへてふ『きみよ、われら終󠄃夜よもすがららうしたるになにをもざりき、れど御言みことばしたがひて網󠄄あみおろさん』 6 かくしかせしにうを夥多おびたゞしきむれ圍󠄃かこみて網󠄄あみけかかりたれば、 7 ほか一艘󠄄いっさうふねにをるくみもの差招さしまねきてきたたすけしむ。きたりてうを艘󠄄さうふね滿みたしたれば、ふねしづまんばかりになりぬ。 8 シモン・ペテロこれて、イエスのひざした平󠄃伏ひれふしてふ『しゅよ、われりたまへ。われつみあるものなり』 9 これはシモンもともものもみなすなどりしうを夥多おびたゞしきにをどろきたるなり。 10 ゼベダイのにしてシモンのともなるヤコブもヨハネもおなじくをどろけり。イエス、シモンにひたまふおそるな、なんぢいまよりのちひと[*]すなどらん』[*直譯「生捕らん」] 11 かれらふねをかにつけ、一切いっさいててイエスにしたがへり。

12 イエスまち居給ゐたまふとき、よ、全󠄃身ぜんしん癩病らいびゃうをわづらふものあり。イエスを平󠄃伏ひれふし、ねがひてふ『しゅよ、御意みこゝろならば、われ潔󠄄きよくなしたまふをん』 13 イエスをのべかれにつけて『わがこゝろなり、潔󠄄きよくなれ』たまへば、たゞちに癩病らいびゃうされり。 14 イエスこれたれにもかたらぬやうにめいじ、かつたま『ただ往󠄃きておのれ祭司さいしせ、モーセがめいじたるごとくなんぢ潔󠄄きよめのために獻物さゝげものして、人々ひとびとあかしせよ』 15 されどいや增々ますますイエスのことひろまりて、おほいなる群衆ぐんじゅう、あるひはをしへかんとし、あるひやまひいやされんとしてあつまきたりしが、 16 イエスさびしきところ退󠄃しりぞきていのたまふ。
 120㌻ 

17 あるイエスをしへをなしたまふとき、ガリラヤの村々むらむら、ユダヤおよびエルサレムよりきたりしパリサイびと敎法けうほふ學者がくしゃら、そこにしゐたり。やまひいやすべきしゅ能力ちからイエスとともにありき。〘88㌻〙 18 よ、人々ひとびと中風ちゅうぶめるものを、とこにのせてになひきたり、これいへれて、イエスの前󠄃まへかんとすれど、 19 群衆ぐんじゅうによりてになるべき道󠄃みちざれば、屋根やねにのぼり、かはらけてとこのまま、人々ひとびとなかにイエスの前󠄃まへおろせり。 20 イエスかれらの信仰しんかうひたまふひとよ、なんぢつみゆるされたり』 21 こゝ學者がくしゃ・パリサイびとろんでてふ『瀆言けがしごとをいふひとたれぞ、かみよりほかたれつみゆるすことをべき』 22 イエスかれらのろんずることをさとり、こたへてたま『なにをこゝろのうちにろんずるか。 23 「なんぢのつみゆるされたり」とふと「起󠄃きてあゆめ」とふといづれやすき、 24 ひとにてつみをゆるす權威󠄂けんゐあることを、なんぢらにらせんために』――中風ちゅうぶめるものたまふ――『なんぢにぐ、起󠄃きよ、とこをとりていへ往󠄃け』 25 かれ立刻󠄂たちどころ人々ひとびと前󠄃まへにて起󠄃きあがり、しゐたるとこをとりあげ、かみあがめつつおのいへかへりたり。 26 人々ひとびとみないたをどろきてかみをあがめおそれ滿ちてふ『今日けふわれらめづらしきことたり』

27 このことのちイエスでて、レビといふ取税人しゅぜいにん收税所󠄃しうぜいしょしをるを『われにしたがへ』たまへば、 28 一切いっさいておき、起󠄃ちてしたがへり。 29 レビおのいへにて、イエスのためおほいなる饗宴ふるまひまうけしに、取税人しゅぜいにんおよびほか人々ひとびとおほく、食󠄃事しょくじせきつらなりゐたれば、 30 パリサイびとおよび曹輩ともがら學者がくしゃら、イエスの弟子でしたちにむかひ、つぶやきてふ『なにゆゑなんぢらは取税人しゅぜいにん罪人つみびとらととも飮食󠄃のみくひするか』 31 イエスこたへてひたまふ健󠄄康けんかうなるもの醫者いしゃ要󠄃えうせず、ただやまひあるもの、これを要󠄃えうす。 32 われたゞしきものまねかんとにあらで、罪人つみびとまねきて悔改くいあらためさせんとてきたれり』
 121㌻ 
33 かれらイエスにふ『ヨハネの弟子でしたちは、しばしば斷食󠄃だんじき祈禱きたうし、パリサイびと弟子でしたちもまたしかするに、なんぢ弟子でしたちは飮食󠄃のみくひするなり』 34 イエスひたまふ新郎はなむこともだち新郎はなむこともにをるうちは、かれらに斷食󠄃だんじきせしめんや。 35 れどきたりて新郎はなむこをとられん、そのには斷食󠄃だんじきせん』 36 イエスまたたとへたま『たれもあたらしきころもりて、ふるころもつくろものはあらじ。もししかせばあたらしきものもやぶれ、かつあたらしきものよりりたるきれふるきものにはじ。 37 たれあたらしき葡萄酒ぶだうしゅを、ふるき革嚢かはぶくろるることはじ。もししかせば葡萄酒ぶだうしゅふくろをはりさきでてふくろすたらん。 38 あたらしき葡萄酒ぶだうしゅは、あたらしき革嚢かはぶくろるべきなり。 39 たれふる葡萄酒ぶだうしゅみてのち、あたらしき葡萄酒ぶだうしゅ望󠄇のぞものはあらじ。「ふるきはし」とへばなり』〘89㌻〙

第6章

1 イエス安息あんそくにちむぎはたけ過󠄃たまふとき、弟子でしたちみ、にてみつつ食󠄃くらひたれば、 2 パリサイびとのうちあるものどもふ『なんぢらはなにゆゑ安息あんそくにちまじきことをするか』 3 イエスこたへてたま『ダビデその伴󠄃ともなへる人々ひとびととともに飢󠄄ゑしとき、ししことをすらまぬか。 4 すなはかみいへりて、祭司さいしほか食󠄃くらふまじきそなへのパンをりて食󠄃くらひ、おのれともなるものにもあたへたり』 5 またひたまふひと安息あんそくにちしゅたるなり』

6 又󠄂またほかの安息あんそくにちにイエス會堂くわいだうりてをしへをなしたまひしに、此處ここひとあり、みぎなえたり。 7 學者がくしゃ・パリサイびとら、イエスをうったふる廉󠄃かど見出みいださんとおもひて、安息あんそくにちひといやすやいなやをうかゞふ。 8 イエスかれらのおもひりてなえたるひと起󠄃きてなかて』たまへば、起󠄃きててり。 9 イエスかれらにたま『われなんぢらにはん、安息あんそくにちぜんをなすとあくをなすと、生命いのちすくふとほろぼすと、いづれかよき』
 122㌻ 
10 かくて一同いちどうまはして、なえたるひと『なんぢのべよ』たまふ。かれしかなしたれば、その癒󠄄ゆ。 11 しかるにかれ狂氣きゃうきごとくなりて、イエスになにをなさんとかたへり。

12 そのころイエスいのらんとてやまにゆき、かみいのりつつあかしたまふ。 13 夜明よあけになりて弟子でしたちをせ、そのうちより十二じふににん選󠄄えらびて、これ使󠄃徒しとづけたまふ。 14 すなはちペテロとづけたまひしシモンと兄弟きゃうだいアンデレと、ヤコブとヨハネと、ピリポとバルトロマイと、 15 マタイとトマスと、アルパヨのヤコブと熱心ねっしんたうばるるシモンと、 16 ヤコブの[*]ユダとイスカリオテのユダとなり。このユダはイエスをものとなりたり。[*或は「兄弟」と譯す。] 17 イエスこれとともにくだりて、平󠄃たひらかなるところたまひしに、弟子でしおほいなる群衆ぐんじゅうおよびユダヤ全󠄃國ぜんこく、エルサレム又󠄂またツロ、シドンの海邊󠄎うみべよりきたりてあるひをしへかんとし、あるひやまひいやされんとするたみおほいなるむれも、そこにあり。 18 けがれしれいなやまされたるものいやされる。 19 能力ちからイエスよりでて、すべてのひといやせば、群衆ぐんじゅうみなイエスにさはらんこともとむ。 20 イエスをあげ弟子でしたちをひたまふ幸福さいはひなるかな、貧󠄃まづしきものよ、かみくになんぢらの有󠄃ものなり。 21 幸福さいはひなるかな、いま飢󠄄うるものよ、なんぢ飽󠄄くことをん。幸福さいはひなるかな、いまものよ、なんぢわらふことをん。 22 ひとなんぢらを憎にくみ、ひとのために遠󠄄とほざけそしなんぢらのしとしててなば、なんぢ幸福さいはひなり。〘90㌻〙 23 そのには、よろこ躍󠄃をどれ。よ、てんにてなんぢらのむくいおほいなり、かれらの先祖せんぞ預言者よげんしゃたちにししも、くありき。 24 されど禍害󠄅わざはひなるかな、ものよ、なんぢらは旣󠄁すでにその慰安なぐさめけたり。
 123㌻ 
25 禍害󠄅わざはひなるかな、いま飽󠄄ものよ、なんぢらは飢󠄄ゑん。禍害󠄅わざはひなるかな、いまわらものよ、なんぢらはかなしみかん。 26 すべてのひと、なんぢらをめなば、なんぢ禍害󠄅わざはひなり。かれらの先祖せんぞ虛僞いつはり預言者よげんしゃたちにししも、くありき。

27 われ更󠄃さらなんぢくものにぐ、なんぢらのあたあいなんぢらを憎にくものくし、 28 なんぢらをのろものしくし、なんぢらをはづかしむるもののためにいのれ。 29 なんぢのほゝものには、ほかほゝをもけよ。なんぢの上衣うはぎものには下衣したぎをも拒󠄃こばむな。 30 すべてもとむるものあたへ、なんぢのものうばものまたもとむな。 31 なんぢらひとられんとおもふごとく、ひとにもしかせよ。 32 なんぢらおのれあいするものあいせばとて、なによみすべきことあらん、罪人つみびとにてもおのれあいするものあいするなり。 33 なんぢおのれにぜんをなすものぜんすとも、なによみすべきことあらん、罪人つみびとにてもしかするなり。 34 なんぢらことあらんとおもひてひとすとも、なによみすべきことあらん、罪人つみびとにてもひとしきものをけんとて罪人つみびとすなり。 35 なんぢらはあたあいし、ぜんをなし、なにをももとめずしてせ、らば、そのむくいおほいならん。かつ至高者いとたかきものたるべし。至高者いとたかきものおんらぬもの、しきものにも仁慈なさけあるなり。 36 なんぢらの父󠄃ちち慈悲じひなるごとく、なんぢらも慈悲じひなれ。 37 ひとさばくな、らばなんぢらもさばかるることあらじ。ひとつみさだむな、らばなんぢらもつみさだめらるることあらじ。ひとゆるせ、らばなんぢらもゆるされん。 38 ひとあたへよ、らばなんぢらもあたへられん。ひとはかりをよくし、れ、ゆす溢󠄃あふるるまでにして、なんぢらの懷中ふところれん。なんぢおのがはかはかりにてはからるべし』

39 またたとへにてひたまふ盲人めしひ盲人めしひ手引てびきするをんや。二人ふたりとも穴󠄄あなちざらんや。 40 弟子でしはその勝󠄃まさらず、おほよ全󠄃まったうせられたるものは、そのごとくならん。
 124㌻ 
41 なにゆゑ兄弟きゃうだいにある[*]ちりて、おのにある梁木うつばり認󠄃みとめぬか。[*或は「木屑」と譯す。] 42 おのがにある梁木うつばりずしていか兄弟きゃうだいむかひて「兄弟きゃうだいよ、なんぢにあるちりのぞかせよ」といふをんや。僞善者ぎぜんしゃよ、おのより梁木うつばりのぞけ。さらばあきらかにえて兄弟きゃうだいにあるちりりのぞきん。 43 しきむすはなく、またむすしきはなし。 44 はおのおのによりてらる。いばらより無花果いちぢくらず、野荊のばらより葡萄ぶだうをさめざるなり。〘91㌻〙 45 ひとこゝろくらよりきものをいだし、しきひとしきくらよりしきものいだす。それこゝろ滿つるより、くちものふなり。

46 なんぢらわれを「しゅしゅよ」とびつつなにふことをおこなはぬか。 47 おほよわれにきたりことばきておこなものは、如何いかなるひとたるかをしめさん。 48 すなはいへ建󠄄つるにふかいはうへもとゐゑたるひとのごとし。洪水おほみづいでてながれそのいへけどもうごかすことあたはず、これかた建󠄄たてられたるゆゑなり。 49 されどきておこなはぬものは、もとゐなくしていへつちうへ建󠄄てたるひとのごとし。ながれそのいへけば、たゞちに崩󠄃くづれて、その破壞やぶれはなはだし』

第7章

1 イエスすべこれらのことばたみかせ終󠄃へてのち、カペナウムにたまふ。

2 ときある百卒長ひゃくそつちゃう、そのおもんずるしもべやみてぬばかりなりしかば、 3 イエスのこときて、ユダヤびと長老ちゃうらうたちを遣󠄃つかはし、きたりてしもべすくたまはんことをねがふ。 4 かれらイエスのもとにいたり、せつ請󠄃ひてふ『かのひとは、ことらるるに相應ふさはし。 5 わが國人くにびとあいし、われらのために會堂くわいだう建󠄄てたり』 6 イエスとも往󠄃たまひて、そのいへはや程󠄃ほど近󠄃ちかくなりしとき、百卒長ひゃくそつちゃう數󠄄人すにんとも遣󠄃つかはしてはしむ『しゅよ、みづからをわづらはしたまふな。われなんぢをわが屋根やねしたれまつるにらぬものなり。
 125㌻ 
7 されば御前󠄃みまへづるにも相應ふさはしからずとおもへり、[*]ただ御言みことばたまひてしもべをいやしたまへ。[*異本「ただ御言を賜へ、さらば我が僕は瘉󠄂えん」とあり。] 8 われみづから權威󠄂けんゐしたかるるものなるに、したにまた兵卒へいそつありて、これに「往󠄃け」とへば往󠄃き、かれに「きたれ」とへばきたり、わがしもべに「これをせ」とへばすなり』 9 イエスきてかれあやしみ振反ふりかへりて、したが群衆ぐんじゅうたま『われなんぢらにぐ、イスラエルのうちにだにかゝるあつき信仰しんかうしことなし』 10 遣󠄃つかはされたるものどもいへかへりて、しもべれば、旣󠄁すで健󠄄康けんかうとなれり。

11 そののちイエス、ナインといふまちにゆきたまひしに弟子でしたちおよおほいなる群衆ぐんじゅうとも往󠄃く。 12 まちもん近󠄃ちかづきたまふとき、よ、いださるる死人しにんあり。これはひとり息子むすこにてはは寡婦󠄃やもめなり、まちおほくの人々ひとびとこれに伴󠄃ともなふ。 13 しゅ寡婦󠄃やもめて、あはれくな』ひて、 14 近󠄃ちかよりひつぎをつけたまへば、くものとゞまる。イエスひたまふ若者わかものよ、われなんぢにふ、起󠄃きよ』〘92㌻〙 15 死人しにん起󠄃きかへりてものはじむ。イエスこれははわたしたまふ。 16 人々ひとびとみなおそれをいだき、かみあがめてふ『おほいなる預言者よげんしゃ、われらのうちおこれり』またふ『かみそのたみ顧󠄃かへりたまへり』 17 このことユダヤ全󠄃國ぜんこくおよび最寄もよりあまねくひろまりぬ。

18 さてヨハネの弟子でしたち、すべこれのことをげたれば、 19 ヨハネりゃう三人さんにん弟子でしび、しゅ遣󠄃つかはしてはしむ『きたるべきものなんぢなるか、あるひほかつべきか』 20 かれ御許みもといたりてふ『バプテスマのヨハネ、われらを遣󠄃つかはしてはしむ「きたるべきものなんぢなるか、あるひほかつべきか」』 21 このときイエスおほくのものやまひ疾患わずらひいやし、しきれい逐󠄃ひいだし、又󠄂またおほくの盲人めしひることをしめたまひしが、 22 こたへてひたまふ往󠄃きてなんぢらがきゝせし所󠄃ところをヨハネにげよ。盲人めしひ跛者あしなへはあゆみ、癩病人らいびゃうにん潔󠄄きよめられ、聾󠄃者みゝしひはきき、死人しにんよみがへらせられ、貧󠄃まづしきもの福音󠄃ふくいんかせらる。
 126㌻ 
23 おほよそわれつまづかぬもの幸福さいはひなり』

24 ヨハネの使󠄃つかひりたるのち、ヨハネのこと群衆ぐんじゅうひいでたま『なんぢらなにながめんとてでし、かぜにそよぐあしなるか。 25 らばなにんとてでし、やはらかきころもたるひとなるか。よ、華美はなやかなるころもをきておごくらもの王宮わうきうり。 26 らばなにんとてでし、預言者よげんしゃなるか。しかわれなんぢらにぐ、預言者よげんしゃよりも勝󠄃まさものなり。 27 よ、わが使󠄃つかひなんぢかほのまへに遣󠄃つかはす。 かれはなんぢ前󠄃まへなんぢ道󠄃みちをそなへん」としるされたるはひとなり。 28 われなんぢらにぐ、をんなみたるものうち、ヨハネよりおほいなるものはなし。れどかみくににてちひさものも、かれよりはおほいなり。 29すべてのたみこれをきて、取税人しゅぜいにんまでもかみたゞしとせり。ヨハネのバプテスマをけたるによる。 30 れどパリサイびと敎法師けうほふしらは、のバプテスマをけざりしにより、各自おのおのにかかはるかみ御旨みむねをこばみたり) 31 れば、われいまひとなになずらへん。かれらはなにたるか。 32 かれらはわらべ市場いちばし、たがひにびて「われらなんぢらのためふえきたれど、なんぢ躍󠄃をどらず。なげきたれど、なんぢかざりき」とふにたり。 33 それはバプテスマのヨハネきたりて、パンをも食󠄃くらはず、葡萄酒ぶだうしゅをもまねば「惡鬼あくきかれたるものなり」となんぢひ、 34 ひときたりて飮食󠄃のみくひすれば「よ、食󠄃しょくむさぼり、さけこのひと、また取税人しゅぜいにん罪人つみびとともなり」となんぢふなり。〘93㌻〙 35 れど智慧󠄄ちゑおのすべてのによりてたゞしと[*]せらる』[*或は「せられたり」と譯す。]

36 こゝあるパリサイびとともに食󠄃しょくせんことをイエスに請󠄃ひたれば、パリサイびといへりてせきにつきたまふ。
 127㌻ 
37 よ、このまちつみある一人ひとりをんなあり。イエスのパリサイびといへにて食󠄃事しょくじせきにゐたまふをり、にほひあぶらりたる石膏せきかうつぼちきたり、 38 きつつ御足みあし近󠄃ちかうしろにたち、なみだにて御足みあしをうるほし、かしらにてこれぬぐひ、また御足みあし接吻くちつけしてにほひあぶられり。 39 イエスをまねきたるパリサイびとこれをて、こゝろのうちにふ『このひともし預言者よげんしゃならばさはものたれ如何いかなるをんななるかをらん、かれ罪人つみびとなるに』 40 イエスこたへてたま『シモン、われなんぢにふことあり』シモンいふ『よ、ひたまへ』 41 債主かしぬし二人ふたり負󠄅債者ふさいしゃありて、一人ひとりはデナリひゃく一人ひとりじふ負󠄅債おひめせしに、 42 つぐのひかたなければ、債主かしぬしこの二人ふたりともゆるせり。されば二人ふたりのうち債主かしぬしあいすることいづれおほき』 43 シモンこたへてふ『われおもふに、おほゆるされたるものならん』イエスたま『なんぢの判󠄄斷はんだんあたれり』 44 かくをんなかた振向ふりむきてシモンにたま『このをんなるか。われなんぢのいへりしに、なんぢはわれあしみづあたへず、をんななみだにてわがあしぬらし、頭髮かみのけにてぬぐへり。 45 なんぢはわれ接吻くちつけせず、をんなりしときより、あし接吻くちつけしてまず。 46 なんぢはかしらあぶららず、をんなあしにほひあぶられり。 47 このゆゑわれなんぢにぐ、このをんなおほくのつみゆるされたり。そのあいすることおほいなればなり。ゆるさるることすくなものは、そのあいすることもまたすくなし』 48 遂󠄅つひをんなたま『なんぢのつみゆるされたり』 49 同席どうせきものどもこゝろうちに『つみをもゆるひとたれなるか』とづ。 50 こゝにイエスをんなたま『なんぢの信仰しんかう、なんぢをすくへり、やすらかに往󠄃け』

第8章

1 こののちイエスをしへべ、かみくに福音󠄃ふくいんつたへつつ、町々まちまち村々むらむらまはたまひしに、十二じふに弟子でし伴󠄃ともなふ。 2 また前󠄃さきしきれい逐󠄃いだされ、やまひいやされなどせしをんなたち、すなはなゝつの惡鬼あくきのいでしマグラダとばるるマリヤ、
 128㌻ 
3 ヘロデのいへつかさクーザのつまヨハンナおよびスザンナ、ほかにもおほくのをんな、ともなひゐて財產ざいさんをもてかれらにつかへたり。

4 おほいなる群衆ぐんじゅうむらがり町々まちまちひと、みもとにつどひたれば、たとへをもてひたまふ、〘94㌻〙 5 たねものそのたねかんとてづ。くときみちかたはらにちしたねあり、みつけられ、又󠄂またそらのとりこれを啄󠄅ついばむ。 6 いはうへちしたねあり、でたれど潤澤うるほひなきによりてる。 7 いばらうちちしたねあり、いばらともでてこれふさぐ。 8 ちしたねあり、でてひゃくばいむすべり』これらのことひてよばはりたま『きくみみあるものくべし』

9 弟子でしたちたとへ如何いかなるこゝろなるかをひたるに、 10 イエスたま『なんぢらはかみくに奧義おくぎることをゆるされたれど、ほかものたとへにてせらる。かれらのず、きてさとらぬためなり。 11 たとへこゝろこれなり。たねかみことばなり。 12 みちかたはらなるは、きたるのち、惡魔󠄃あくまきたり、しんじてすくはるることのなからんために御言みことばをそのこゝろよりうば所󠄃ところひとなり。 13 いはうへなるはきて御言みことばよろこくれども、なければ、しばらしんじて嘗試こゝろみのときに退󠄃しりぞ所󠄃ところひとなり。 14 いばらうちちしは、きてのち。過󠄃ぐるほどに心勞こゝろづかひ財貨たから快樂けらくとにふさがれてみのらぬ所󠄃ところひとなり。 15 なるは、御言みことばき、たゞしくこゝろにてこれまもり、忍󠄄しのびてむす所󠄃ところひとなり。

16 たれ燈火ともしびをともしうつはにて覆󠄄おほひ、または寢臺ねだいしたにおくものなし、きたもののそのひかりんためにこれ燈臺とうだいうへくなり。 17 それかくれたるもののあらはれぬはなく、めたるもののられぬはなく、あきらかにならぬはなし。 18 ればなんぢくこと如何いかにとこゝろせよ、たれにても有󠄃てるひとは、なほあたへられ、有󠄃たぬひとは、その有󠄃てりとおもものをもらるべし』
 129㌻ 

19 さてイエスのはは兄弟きゃうだいきたりたれど、群衆ぐんじゅうによりて近󠄃ちかづくことあたはず。 20 あるひとイエスに『なんぢのはは兄弟きゃうだいなんぢはんとてそとつ』とげたれば、 21 こたへてひたまふ『わがはは、わが兄弟きゃうだいは、かみことばき、かつおこなこれらのものなり』

22 あるイエス弟子でしたちとともふねりて『みづうみの彼方かなたにゆかん』たまへば、すなは船󠄄出ふなです。 23 わたるほどにイエスねむりたまふ。颶風はやてみづうみにおろし、ふねみづ滿ちんとしてあやふかりしかば、 24 弟子でしたち御側みそばにより、起󠄃おこしてふ『きみよ、きみよ、われらはほろぶ』イエス起󠄃きてかぜなみとをいましたまへば、ともにしづまりてなぎとなりぬ。 25 かく弟子でしたちにたま『なんぢらの信仰しんかういづこにるか』かれらおそあやしみてたがひふ『こはたれぞ、かぜみづとにめいたまへばしたがふとは』〘95㌻〙

26 遂󠄅つひにガリラヤにむかへるゲラセネびとく。 27 をかのぼりたまふとき、そのまちひとにて惡鬼あくきかれたるものきたり遇󠄃ふ。このひとひさしきあひだころもず、またいへ住󠄃まずしてはかうちにゐたり。 28 イエスをてさけび、御前󠄃みまへ平󠄃伏ひれふして大聲おほごゑにいふ『至高いとたかかみイエスよ、われなんぢなに關係かゝはりあらん、ねがはくはわれくるしめたまふな』 29 これはイエスけがれしれいに、このひとより往󠄃かんことをめいたまひしにる。このひとけがれしれいにしばしば[*]とらへられ、くさり足械あしかせとにてつなまもられたれど、そのつなぎをやぶり、惡鬼あくき逐󠄃はれて、荒野あらの往󠄃けり。[*或は「久しく」と譯す。] 30 イエスこれ『なんぢのなにか』たまへば『レギオン』とこたふ、おほくの惡鬼あくきそのうちりたるゆゑなり。 31 かれらイエスにそこなき所󠄃ところ往󠄃くをめいたまはざらんことを請󠄃ふ。
 130㌻ 
32 彼處かしこやまに、おほくのぶたひとむれ食󠄃しょくたりしが、惡鬼あくきどもぶたるをゆるたまはんことを請󠄃ひたれば、イエスゆるたまふ。 33 惡鬼あくきひとでてぶたりたれば、そのむれがけより湖水みづうみくだりておぼれたり。 34 ものども起󠄃おこりしこと逃󠄄往󠄃きて、まちにもさとにもげたれば、 35 人々ひとびとありしことんとてで、イエスにきたりて、惡鬼あくきでたるひとの、衣服󠄃ころもをつけたしかなるこゝろにて、イエスの足下あしもとしをるをおそれあへり。 36 かの惡鬼あくきかれたるひとすくはれし事柄ことがらものどもこれかれらにげたれば、 37 ゲラセネ地方ちはう民衆みんしゅう、みなイエスにたまはんことを請󠄃ふ。これおほいおそれたるなり。こゝにイエスふねりてかへたまふ。 38 とき惡鬼あくきでたるひと、ともにらんことをねがひたれど、これらしめんとて、 39 たま『なんぢのいへかへりて、かみ如何いかおほいなることなんぢになしたまひしかを具󠄄つぶさげよ』かれゆきて、イエスの如何いかおほいなることおのれになしたまひしかをあまねくそのまちひろめたり。

40 かくてイエスのかへたまひしとき、群衆ぐんじゅうこれを迎󠄃むかふ、みなちゐたるなり。 41 よ、會堂くわいだうつかさにてヤイロといふものあり、きたりてイエスの足下あしもとし、そのいへにきたりたまはんことをねがふ。 42 おほよそ十二じふにさいほどの一人ひとりむすめありてぬばかりなるゆゑなり。イエスの往󠄃たまふとき、群衆ぐんじゅうかこみふさがる。

43 こゝじふ二年にねんこのかた血漏ちらうわづらひて[*]醫者いしゃためおの身代しんだいをことごとくつひやしたれども、たれにも癒󠄄いやされざりしをんなあり。[*異本「醫者の爲に己が身代を悉く費しれれども」の句なし。] 44 イエスのうしろきたりて、御衣みころも總󠄂ふさにさはりたれば、づること立刻󠄂たちどころみたり。 45 イエスたまわれさはりしはたれぞ』ひとみないなみたれば、ペテロ[*]およともにをるものどもふ『きみよ、群衆ぐんじゅうなんぢを圍󠄃かこみて押迫󠄃おしせまるなり』[*異本「及び共になるものども」の句なし。]〘96㌻〙
 131㌻ 
46 イエスたま『われにさはりしものあり、能力ちからわれよりでたるをる』 47 をんなおのれがかくぬことをり、をのゝきたりて御前󠄃みまへ平󠄃伏ひれふし、さはりしゆゑ立刻󠄂たちどころ癒󠄄えたることとを、人々ひとびと前󠄃まへにてぐ。 48 イエスたま『むすめよ、なんぢ信仰しんかうなんぢをすくへり、やすらかに往󠄃け』

49 かくかたたまふほどに、會堂くわいだうつかさいへよりひときたりてふ『なんぢのむすめにたり、わづらはすな』 50 イエスこれきて會堂くわいだうつかさこたへたまふおそるな、ただしんぜよ。さらばむすめすくはれん』 51 イエスいへいたりて、ペテロ、ヨハネ、ヤコブおよ父󠄃ちちははほかは、ともにることをたれにもゆるたまはず。 52 ひとみなき、かつのためになげたりしが、イエスひたまふくな、にたるにあらず、ねたるなり』 53 人々ひとびとそのにたるをれば、イエスを嘲󠄂笑あざわらふ。 54 しかるにイエスをとり、びてよ、起󠄃きよ』とたまへば、 55 そのれいかへりて立刻󠄂たちどころ起󠄃く。イエス食󠄃物しょくもつこれあたふることをめいたまふ。 56 その兩親ふたおやおどろきたり。イエス有󠄃りしことたれにもかたらぬやうにめいたまふ。

第9章

1 イエス十二じふに弟子でしせて、もろもろの惡鬼あくきせいし、やまひをいやす能力ちから權威󠄂けんゐとをあたへ、 2 またかみくに宣傳のべつたへしめ、ひといやさしむるためこれ遣󠄃つかはさんとしてたまふ、 3 旅󠄃たびのためになにをもつな、つゑふくろかてかねも、またふたつの下衣したぎをもつな。 4 いづれのいへるとも、其處そことゞまれ、しかして其處そこよりれ。 5 ひともしなんぢらをけずば、そのまちるときあかしのためにあしちりはらへ』 6 こゝ弟子でしたちでて村々むらむら巡󠄃めぐあまね福音󠄃ふくいん宣傳のべつたへ、いやすことをせり。
 132㌻ 

7 さて國守こくしゅヘロデ、ありしすべてのことをききて周󠄃章あわてまどふ。あるひとはヨハネ死人しにんうちよりよみがへりたりといひ、 8 あるひとはエリヤあらはれたりといひ、またあるひといにしへの預言者よげんしゃ一人ひとりよみがへりたりとへばなり。 9 ヘロデふ『ヨハネはわれすでに首斬くびきりたり、しかるにかゝことのきこゆるひとたれなるか』かくてイエスをんことをもとめゐたり。

10 使󠄃徒しとたちかへりきて、ししこと具󠄄つぶさにイエスにぐ。イエスかれらをたづさへてひそかにベツサイダといふまち退󠄃しりぞきたまふ。〘97㌻〙 11 れど群衆ぐんじゅうこれをりてしたがきたりたれば、かれらをけて、かみくにことかたり、かつ治療ちれう要󠄃えうする人々ひとびといやしたまふ。 12 かたぶきたれば、十二じふに弟子でしきたりてふ『群衆ぐんじゅうらしめ、周󠄃圍󠄃まはりむらまたさとにゆき、宿やどをとりて、食󠄃物しょくもつもとめさせたまへ。われらはかゝさびしき所󠄃ところるなり』 13 イエスたま『なんぢら食󠄃物しょくもつあたへよ』弟子でしたちふ『われらただいつつのパンとふたつのうをとあるのみ、おほくのひとのために、往󠄃きてはねばほか食󠄃物しょくもつなし』 14 をとこおほよそせんにんゐたればなり。イエス弟子でしたちにひたまふ人々ひとびとくみにしてじふにんづつせしめよ』 15 かれそのごとくなして、人々ひとびとをみなせしむ。 16 かくてイエスいつつのパンとふたつのうをとをり、てんあふぎてしくし、きて弟子でしたちにわたし、群衆ぐんじゅうのまへにかしめたまふ。 17 かれらは食󠄃くらひてみな飽󠄄く。きたるあまりあつめしに十二じふにかごほどありき。

18 イエス人々ひとびとはなれていの居給ゐたまふとき、弟子でしたちともにをりしにひてひたまふ群衆ぐんじゅうわれたれといふか』 19 こたへてふ『バプテスマのヨハネ、あるひとはエリヤ、あるひといにしへの預言者よげんしゃ一人ひとり、よみがへりたりとふ』 20 イエスたま『なんぢらはわれたれふか』ペテロこたへてふ『かみのキリストなり』 21 イエスかれらをいましめて、これたれにもげぬやうにめいじ、かつたま
 133㌻ 
22 ひとかならおほくの苦難くるしみをうけ、長老ちゃうらう祭司長さいしちゃう學者がくしゃらにてられ、かつころされ、三日みっかめによみがへるべし』 23 また一同いちどうものひたまふひともしわれしたがきたらんとおもはば、おのれをすて、日々ひゞおのが十字架じふじか負󠄅ひてわれしたがへ。 24 おの生命いのちすくはんとおもものこれうしなひ、がためにおの生命いのちうしなふそのひとこれすくはん。 25 ひと全󠄃世界ぜんせかい贏󠄅まうくともおのれをうしなひおのれそんせば、なにえきあらんや。 26 われことばとをづるものをば、ひともまたおのれ父󠄃ちち聖󠄃せいなる御使󠄃みつかひたちとの榮光えいくわうをもてきたらんときづべし。 27 われまことをもてなんぢらにぐ、此處ここもののうちに、かみくにるまでは、あぢははぬものどもあり』

28 これらのことばをいひたまひしのち八日やうかばかり過󠄃ぎて、ペテロ、ヨハネ、ヤコブを率󠄃きつれ、いのらんとてやまのぼたまふ。 29 かくていのたまふほどに、御顏みかほさまかはり、ころもしろくなりてかゞやけり。 30 よ、二人ふたりひとありてイエスとともかたる。これはモーセとエリヤとにて、 31 榮光えいくわうのうちにあらはれ、イエスのエルサレムにて遂󠄅げんとする逝󠄃去せいきょのことをひゐたるなり。 32 ペテロおよともにをるものいたく睡氣ねむけざしたれど、さましてイエスの榮光えいくわうおよびとも二人ふたりたり。〘98㌻〙 33 二人ふたりものイエスとわかれんとするとき、ペテロ、イエスにふ『きみよ、われらの此處ここるはし、われつのいほり造󠄃つくり、ひとつをなんぢのため、ひとつをモーセのため、ひとつをエリヤのためにせん』かれ所󠄃ところらざりき。 34 このことるほどに、くもおこりてかれらを覆󠄄おほふ。くもうちりしとき、弟子でしたちおそれたり。 35 くもよりこゑでてふ『これは選󠄄えらびたるなり、なんぢこれけ』 36 こゑでし[*]とき、たゞイエスひとりたまふ。弟子でしたちもくして、ことなにひところたれにもげざりき。[*或は「聲やみし」と譯す。]
 134㌻ 

37 次󠄄つぎやまよりくだりたるに、おほいなる群衆ぐんじゅうイエスを迎󠄃むかふ。 38 よ、群衆ぐんじゅうのうちのあるひとさけびてふ『よ、ねがはくは顧󠄃かへりみたまへ、これ獨子ひとりごなり。 39 よ、れいくときはにはかさけぶ、痙攣ひきつけてあわをふかせ、いた害󠄅そこなひ、やうやくにしてはなるるなり。 40 御弟子みでしたちにこれ逐󠄃いだすことを請󠄃ひたれど、あたはざりき』 41 イエスこたへてたま『ああしんなきまがれるなるかな、われ何時いつまでなんぢらとともにをりて、なんぢらを忍󠄄しのばん。なんぢをここに連󠄃きたれ』 42 すなはきたるとき、惡鬼あくきこれをたふし、いた痙攣ひきつけさせたり。イエスけがれしれいいましめ、いやして、その父󠄃ちちわたしたまふ。 43 人々ひとびとみなかみ稜威󠄂みいつをどろきあへり。   人々ひとびとみなイエスのたまひしすべてのことあやしめるとき、イエス弟子でしたちにたまふ、

44 『これらのことばなんぢらのみみにをさめよ。ひと人々ひとびとわたさるべし』 45 かれらことばさとらず、わきまへぬやうにかくされたるなり。またことにつきてふことをおそれたり。

46 こゝ弟子でしたちのうちに、たれおほいならんとの爭論あらそひおこりたれば、 47 イエスそのこゝろ爭論あらそひりて、幼兒をさなごをとり御側みそばきてたまふ、 48 『おほよそのために幼兒をさなごくるものは、われくるなり。われくるものは、われ遣󠄃つかはししものくるなり。なんぢらのうちにてもっとちひさものは、これおほいなるなり』

49 ヨハネこたへてふ『きみよ、御名みなによりて惡鬼あくき逐󠄃ひいだすものしが、我等われらとともにしたがはぬゆゑに、これとゞめたり』 50 イエスたまとゞむな。なんぢらに逆󠄃さからはぬものは、なんぢらにものなり』

51 イエスてんげらるるとき滿ちんとしたれば、御顏みかほかたくエルサレムにけて進󠄃すゝまんとし、 52 おのれさきだちて使󠄃つかひ遣󠄃つかはしたまふ。かれ往󠄃きてイエスのためそなへをなさんとて、サマリヤびとあるむらりしに、〘99㌻〙
 135㌻ 
53 むらびとそのエルサレムにむかひて往󠄃たまふさまなるがゆゑに、イエスをけず、 54 弟子でしのヤコブ、ヨハネ、これをふ『しゅよ、われらが[*]てんよりくだしてかれらをほろぼすことをほったまふか』[*諸異本「エリヤの爲しし如く」の句あり。] 55 イエス顧󠄃かへりみてかれらを[*]いましめ、[*異本「戒めて言ひ給ふ、汝らはおのが心の如何なるかを知らぬなり。人の子は、人の生命を亡さんとにあらで、之を救はんとて來れり」の句あり。] 56 遂󠄅つひあひともほかむら往󠄃きたまふ。

57 途󠄃みち往󠄃くとき、あるひとイエスにふ『何處いづこ往󠄃たまふともわれしたがはん』 58 イエスひたまふきつね穴󠄄あなあり、空󠄃そらとりねぐらあり、されどひとまくらする所󠄃ところなし』 59 またあるひとひたまふわれしたがへ』かれふ『まづ往󠄃きて父󠄃ちちはうむることをゆるたまへ』 60 イエスひたまふにたるものに、そのにたるものはうむらせ、なんぢ往󠄃きてかみくにひろめよ』 61 またあるひといふ『しゅよ、われなんぢにしたがはん、されどいへものわかれぐることをゆるたまへ』 62 イエスひたまふすきにつけてのちうしろ顧󠄃かへりみるものは、かみくに適󠄄かなものにあらず』

第10章

1 このことののち、しゅ、ほかにしちじふにんをあげて、みづか往󠄃かんとする町々まちまち處々ところどころへ、おのれにさきだち二人ふたりづつを遣󠄃つかはさんとしてたまふ、 2 收穫かりいれはおほく、勞働人はたらきびとすくなし。このゆゑ收穫かりいれしゅ勞働人はたらきびとをその收穫場かりいれば遣󠄃つかはたまはんことをもとめよ。 3 往󠄃け、よ、われなんぢらを遣󠄃つかはすは、羔羊こひつじ豺狼おほかみのなかにるるがごとし。 4 財布さいふふくろくつたづさふな。また途󠄃みちにてたれにも挨拶あいさつすな。 5 いづれいへるとも、平󠄃安へいあんこのいへにあれとへ。 6 もし平󠄃安へいあん、そこにらば、なんぢらのしくする平󠄃安へいあんはそのうへとゞまらん。もししからずば、平󠄃安へいあんなんぢらにかへらん。 7 そのいへにとどまりて、あたふるもの食󠄃みせよ。勞働人はたらきびとのそのあたひるは相應ふさはしきなり。いへよりいへうつるな。
 136㌻ 
8 いづれまちるとも、人々ひとびとなんぢらをけなば、なんぢらの前󠄃まへそなふるもの食󠄃しょくし、 9 其處そこにをるやまひのものをいやし、また「かみくになんぢらに近󠄃ちかづけり」とへ。 10 いづれまちるとも、人々ひとびとなんぢらをけずば、大路おほじでて、 11 われらのあしにつきたるなんぢらのまちちりをもなんぢらにたいしてはらつ、されどかみくに近󠄃ちかづけるをれ」とへ。 12 われなんぢらにぐ、かのにはソドムのかたそのまちよりもやすからん。 13 禍害󠄅わざはひなるかな、コラジンよ、禍害󠄅わざはひなるかな、ベツサイダよ、なんぢらのうちにておこなひたる能力ちからあるわざを、ツロとシドンとにておこなひしならば、かれらははや荒布あらぬのをき、灰󠄃はひのなかにして、悔改くいあらためしならん。〘100㌻〙 14 されば審判󠄄さばきにはツロとシドンとのかたなんぢよりも、やすからん。 15 カペナウムよ、なんぢてんにまでげらるべきか、黃泉よみにまでくだらん。 16 なんぢものわれくなり、なんぢらをつるものわれつるなり。われつるものわれ遣󠄃つかはたまひしものつるなり』

17 しちじふにんよろこびかへりてふ『しゅよ、なんぢによりて惡鬼あくきすらわれらに服󠄃ふくす』 18 イエスかれらにたま『われてんよりひらめ電光いなづまのごとくサタンのちしをたり。 19 よ、われなんぢらにへび蠍󠄂さそりみ、あたすべてのちからおさふる權威󠄂けんゐさづけたれば、なんぢらを害󠄅そこなふものえてなからん。 20 れどれいなんぢらに服󠄃ふくするをよろこぶな、なんぢらのてんしるされたるをよろこべ』

21 そのときイエス聖󠄃せいれいによりよろこびてひたまふてんしゅなる父󠄃ちちよ、われ感謝󠄃かんしゃす、これのことをかしこきもの慧󠄄さとものかくして嬰兒みどりごあらはしたまへり。父󠄃ちちよ、しかり、かくのごときは御意みこゝろ適󠄄かなへるなり。 22 すべてのものわれわが父󠄃ちちよりゆだねられたり。たれなるをものは、父󠄃ちちほかになく、父󠄃ちちたれなるをものは、またほっするままにあらはすところのものほかになし』
 137㌻ 
23 かく弟子でしたちを顧󠄃かへりひそかたま『なんぢらの所󠄃ところ幸福さいはひなり。 24 われなんぢらにぐ、おほくの預言者よげんしゃも、わうも、なんぢらのるところをんとほっしたれどず、なんぢらの所󠄃ところかんとほっしたれどかざりき』

25 よ、敎法師けうほふしちてイエスをこゝろみてふ『よ、われ永遠󠄄とこしへ生命いのちぐためにはなにをなすべきか』 26 イエスひたまふ律法おきてなにしるしたるか、なんぢいかにむか』 27 こたへてふ『なんぢこゝろつくし、精神せいしんつくし、ちからつくし、おもひつくして、しゅたるなんぢかみあいすべし。またおのれのごとくなんぢとなりあいすべし』 28 イエスたま『なんぢのこたへたゞし。これおこなへ、さらばくべし』 29 かれおのれをとせんとしてイエスにふ『わがとなりとはたれなるか』 30 イエスこたへてひたまふあるひとエルサレムよりエリコにくだるとき、强盜がうたうにあひしが、强盜がうたうどもそのころもぎ、きず負󠄅はせ、半󠄃死半󠄃生はんしはんしゃうにしてりぬ。 31 ある祭司さいしたまたま途󠄃みちよりくだり、これてかなたを過󠄃往󠄃けり。 32 又󠄂またレビびと此處ここにきたり、これおなじく彼方かなた過󠄃往󠄃けり 33 しかるにるサマリヤびと旅󠄃たびしてもとにきたり、これあはれみ、 34 近󠄃寄ちかよりてあぶら葡萄酒ぶだうしゅとをそゝきず包󠄃つゝみておのけものにのせ、旅󠄃舍はたごや連󠄃れゆきて介抱󠄃かいはうし、〘101㌻〙 35 あくるデナリふたつをいだし、主人あるじあたへて「このひと介抱󠄃かいはうせよ。つひえもしさばかへりくるときつくのはん」とへり。 36 なんぢいかにおもふか、三人さんにんのうち、いづれ强盜がうたうにあひしものとなりとなりしぞ』 37 かれふ『そのひと憐憫あはれみほどこしたるものなり』イエスたま『なんぢも往󠄃きてごとくせよ』

38 かくかれ進󠄃すゝみゆくうちに、イエスあるむらたまへば、マルタとづくるをんなおのがいへ迎󠄃むかる。
 138㌻ 
39 その姉妹しまひにマリヤといふものありて、イエスの足下あしもとし、御言みことばきをりしが、 40 マルタ饗應もてなしのことおほくしてこゝろいりみだれ、御許みもと進󠄃すゝみよりてふ『しゅよ、わが姉妹しまいわれを一人ひとりのこしてはたらかするを、なにともおもたまはぬか、かれめいじてわれたすけしめたまへ』 41 しゅこたへてたま『マルタよ、マルタよ、なんぢさまざまのことにより、おもわづらひて心勞こゝろづかひす。 42 されどくてならぬものは[*]おほからず、唯一ただひとつのみ、マリヤはきかたを選󠄄えらびたり。これかれよりうばふべからざるものなり』[*異本「多からず」の句なし。]

第11章

1 イエスあるところにていの居給ゐたまひしが、その終󠄃をはりしとき、弟子でし一人ひとりいふ『しゅよ、ヨハネの弟子でしをしへしごとく、いのることをわれらにをしたまへ』 2 イエスたま『なんぢらいのるときにへ「父󠄃ちちよ、ねがはくは御名みなあがめられんことを。御國みくにきたらんことを。 3 われ[*]日用にちようかて日每ひごとあたたまへ。[*異本「御心の天のごとく地にも行はれんことを」との句あり。] 4 われらに負󠄅債おひめあるすべてのものわれゆるせば、われらのつみをもゆるたまへ。われらを嘗試こゝろみにあはせたまふな」[*][*異本「惡より救ひ出したまへ」の句あり。] 5 またたま『なんぢらのうちたれかともあらんに、夜半󠄃よなかにそのもと往󠄃きて「ともよ、われつのパンをせ。 6 わがとも旅󠄃たびよりきたりしに、これそなふべきものなし」ととき 7 かれうちよりこたへて「われをわづらはすな、ははやぢ、らはわれとも臥所󠄃ふしどにあり、起󠄃ちてあたかたし」といふことありとも、 8 われなんぢらにぐ、ともなるによりては起󠄃ちてあたへねど、もとめせつなるにより、起󠄃きて要󠄃えうする程󠄃ほどのものをあたへん。 9 われなんぢらにぐ、もとめよ、さらばあたへられん。尋󠄃たづねよ、さらば見出みいださん。もんたゝけ、さらばひらかれん。 10 すべてもとむるもの尋󠄃たづぬるもの見出みいだし、もんたゝものひらかるるなり。 11 なんぢのうち父󠄃ちちたるもの、たれかうをもとめんに、[*]うをかわりへびあたへ、[*異本 子と魚との間に「パンを求めんに、石を與へ」の句あり。]
 139㌻ 
12 たまごもとめんに蠍󠄂さそりあたへんや。 13 さらばなんぢしきものながら、賜物たまものをそのらにあたふるをる。ましててん父󠄃ちちもとむるもの聖󠄃せいれいたまはざらんや』〘102㌻〙

14 さてイエスおふし惡鬼あくき逐󠄃ひいだしたまへば、惡鬼あくきいでておふしものひしにより、群衆ぐんじゅうあやしめり。 15 うちあるものどもふ『かれは惡鬼あくきかしらベルゼブルによりて惡鬼あくき逐󠄃いだすなり』 16 またあるものどもは、イエスをこゝろみんとててんよりのしるしもとむ。 17 イエスそのおもひりてたま『すべて分󠄃わかあらそくにほろび、分󠄃わかあらそいへたふる。 18 サタンもし分󠄃わかあらそはば、そのくにいかでつべき。なんぢわが惡鬼あくき逐󠄃いだすを、ベルゼブルにるとへばなり。 19 われもしベルゼブルによりて、惡鬼あくき逐󠄃いださば、なんぢらのたれによりてこれ逐󠄃いだすか。このゆゑかれらはなんぢらの審判󠄄さばきひととなるべし。 20 れどわれもしかみゆびによりて、惡鬼あくき逐󠄃いださば、かみくに旣󠄁すでなんぢらにいたれるなり。 21 つよきもの武具󠄄ぶぐをよろひておの屋敷󠄃やしきまもるときは、所󠄃有󠄃もちもの安全󠄃あんぜんなり。 22 れど更󠄃さらつよきものきたりて、これ勝󠄃つときは、たのみとする武具󠄄ぶぐをことごとくうばひて、分󠄃捕物ぶんどりもの分󠄃わかたん。 23 われともならぬものわれにそむき、われともあつめぬものちらすなり。 24 けがれしれいひとづるときは、みづなきところ巡󠄃めぐりて、やすみもとむ。されどずしてふ「わがでしいへかへらん」 25 かへりていへ掃󠄃きよめられ、飾󠄃かざられたるを 26 遂󠄅つひ往󠄃きておのれよりもしきほかなゝつのれい連󠄃れきたり、ともりて此處ここ住󠄃む。さればそのひとのちさまは、前󠄃まへよりもしくなるなり』

27 これのことをたまふとき、群衆ぐんじゅううちよりあるをんなこゑをあげてふ『幸福さいはひなるかな、なんぢ宿やどししたい、なんぢのひし乳󠄃房󠄃ちぶさは』 28 イエスひたまふ更󠄃さら幸福さいはひなるかな、かみことばきてこれまもひとは』 29 群衆ぐんじゅうおしあつまれるとき、イエスでたまふいま邪󠄅曲よこしまなるにしてしるしもとむ。されどヨナのしるしのほかにしるしあたへられじ。
 140㌻ 
30 ヨナがニネベのひとしるしとなりしごとく、ひともまたいましからん。 31 みなみ女王にょわう審判󠄄さばきのとき、いまひととも起󠄃きて、これつみさだめん。かれはソロモンの智慧󠄄ちゑかんとてはてよりきたれり。よ、ソロモンよりも勝󠄃まさるもの此處ここにあり。 32 ニネベのひと審判󠄄さばきのとき、いまひとともちてこれつみさだめん。かれらはヨナのぶることばによりて悔改くいあらためたり。よ、ヨナよりも勝󠄃まさるもの此處ここり。

33 たれ燈火ともしびをともして、穴󠄄藏あなぐらうちまたはますしたにおくものなし。きたものひかりんために、燈臺とうだいうへくなり。 34 なんぢ燈火ともしびなり、なんぢたゞしきときは、全󠄃身ぜんしんあかるからん。されどしきときは、もまた暗󠄃くらからん。 35 このゆゑなんぢうちひかりやみにはあらぬか、かへりみよ。〘103㌻〙 36 もしなんぢ全󠄃身ぜんしんあかるくして暗󠄃くら所󠄃ところなくば、かゞやける燈火ともしびてらさるるごとく、その全󠄃まったあかるからん』

37 イエスのかたたまへるとき、あるパリサイびとそのいへにて[*]食󠄃事しょくじたまはんこと請󠄃ひたれば、りてせききたまふ。[*或は「ひろげ」と譯す。] 38 食󠄃事しょくじ前󠄃まへあらたまはぬを、のパリサイびとあやしみたれば、 39 しゅこれにひたまふいまなんぢらパリサイびとは、酒杯さかづき盆󠄃ぼんとのそと潔󠄄きよくす、れどなんぢらのうち貪慾どんよくあくとにて滿つるなり。 40 おろかなるものよ、そと造󠄃つくりしものは、うちをも造󠄃つくりしならずや。 41 ただそのうちにあるものほどこせ。さらば、一切すべてものなんぢらのため潔󠄄きよくなるなり。

42 禍害󠄅わざはひなるかな、パリサイびとよ、なんぢらは薄󠄄荷はくか芸香うんかうそのほかあらゆる野菜󠄄やさい十分󠄃じふぶんいち納󠄃をさめて、公󠄃平󠄃こうへいかみたいするあいとを等閑なほざりにす、れどこれおこなふべきものなり。しかしてかれもまた等閑なほざりにすべきものならず。 43 禍害󠄅わざはひなるかな、パリサイびとよ、なんぢらは會堂くわいだう上座じゃうざ市場いちばにての敬禮けいれいよろこぶ。
 141㌻ 
44 禍害󠄅わざはひなるかな、なんぢらはあらはれぬはかのごとし。うへあゆひとこれをらぬなり』

45 敎法師けうほふし一人ひとりこたへてふ『よ、かゝることをふは、われらをもはづかしむるなり』 46 イエスたま『なんぢら敎法師けうほふし禍害󠄅わざはひなるかな。なんぢらにながたひと負󠄅おはせて、みづかゆびひとつだににつけぬなり。 47 禍害󠄅わざはひなるかな、なんぢらは預言者よげんしゃたちのはか建󠄄つ、これころししものなんぢらの先祖せんぞなり。 48 げになんぢらは先祖せんぞ所󠄃作しわざしとする證人あかしびとぞ。それはかれらはこれころし、なんぢらははか建󠄄つればなり。 49 このゆゑかみ智慧󠄄ちゑ、いへることあり、われ預言者よげんしゃ使󠄃徒しととをかれらに遣󠄃つかはさんに、そのうちあるものころし、また逐󠄃くるしめん。 50 はじめよりながされたるすべての預言者よげんしゃ 51 すなはちアベルのより、祭壇さいだん聖󠄃所󠄃せいじょとのあひだにてころされたるザカリヤのいたるまでを、いまたゞすべきなり。しかり、われなんぢらにぐ、いまたゞさるべし。 52 禍害󠄅わざはひなるかな、敎法師けうほふしよ、なんぢらは知識ちしき鍵󠄃かぎりてみづからず、らんとするひとをもめしなり』

53 此處ここよりたまへば、學者がくしゃ・パリサイびとはげしくせて樣々さまざまのことをなじりはじめ、 54 そのくちより何事なにごとをかとらへんと待構󠄃まちかまへたり。〘104㌻〙

第12章

1 そのとき無數󠄄むすうひとあつまりて、群衆ぐんじゅうふみふばかりなり。イエスまづ弟子でしたちにたま『なんぢら、パリサイびとのパンだねにこゝろせよ、これ僞善ぎぜんなり。 2 おほはれたるものにあらはれぬはなく、かくれたるものにられぬはなし。 3 このゆゑなんぢらが暗󠄃くらきにてふことは、あかるきにてきこえ、部屋へやうちにてみゝによりてかたりしことは、うへにてべらるべし。
 142㌻ 
4 ともたるなんぢらにぐ。ころしてのちなにをもものどもをおそるな。 5 おそるべきものをなんぢらにしめさん。ころしたるのちゲヘナにるる權威󠄂けんゐあるものおそれよ。われなんぢらにぐ、げにこれおそれよ。 6 すずめ二錢にせんにてるにあらずや、しかるにいちだにかみ前󠄃まへ忘󠄃わすれらるることなし。 7 なんぢらのかしらまでもみな數󠄄かぞへらる。おそるな、なんぢらはおほくのすゞめよりもすぐるるなり。 8 われなんぢらにぐ、おほよひと前󠄃まへわれひあらはすものを、ひともまたかみ使󠄃つかひたちの前󠄃まへにてひあらはさん。 9 されどひと前󠄃まへにてわれいなものは、かみ使󠄃つかひたちの前󠄃まへにていなまれん。 10 おほよことばをもてひと逆󠄃さからものゆるされん。れど聖󠄃せいれいけがすものはゆるされじ。 11 ひとなんぢらを會堂くわいだうあるひつかさ、あるひは權威󠄂けんゐあるもの前󠄃まへきゆかんとき、いかになにこたへ、またはなにはんとおもわづらふな。 12 聖󠄃せいれいそのときふべきことををしたまはん』

13 群衆ぐんじゅうのうちのあるひといふ『よ、わが兄弟きゃうだいめいじて、嗣業しげふわれ分󠄃わかたしめたまへ』 14 これひたまふひとよ、われててなんぢらの裁判󠄄人さいばんにんまた分󠄃配󠄃ぶんぱいしゃとせしぞ』 15 かく人々ひとびとひたまふつゝしみてすべての慳貪むさぼりをふせげ、ひと生命いのち所󠄃有󠄃もちものゆたかなるにはらぬなり』 16 またたとへかたりてたま『あるめるひと、そのはたゆたかみのりたれば、 17 こゝろうちはかりてふ「われ如何いかにせん、作物さくもつをさめおくところなし」 18 遂󠄅つひふ「われさん、わがくらこぼち、更󠄃さらおほいなるものを建󠄄てて、其處そこにわが穀物こくもつおよびものをことごとくをさめん。 19 かくてわが[*]靈魂たましひはん、靈魂たましひよ、多年たねん過󠄃すごすにおほくのものたくはへたれば、やすんぜよ、飮食󠄃のみくひせよ、たのしめよ」[*或は「生命」と譯す。] 20 しかるにかみかれに「おろかなるものよ、今宵󠄃こよひなんぢの靈魂たましひとらるべし、らばなんぢそなへたるものは、がものとなるべきぞ」とたまへり。 21 おのれのためにたからたくはへ、かみたいしてまぬものは、かくのごとし』
 143㌻ 

22 また弟子でしたちにたま『このゆゑに、われなんぢらにぐ、なに食󠄃くらはんと生命いのちのことをおもわづらひ、なにんとからだのことをおもわづらふな。 23 生命いのちかてにまさり、からだころも勝󠄃まさるなり。〘105㌻〙 24 鴉󠄄からすおもよ、かず、らず、納󠄃屋なやくらもなし。しかるにかみこれ養󠄄やしなひたまふ、なんぢとりすぐるること幾許いくばくぞや。 25 なんぢらのうちたれかおもわづらひて、[*]たけ一尺いっしゃくくはんや。[*或は「その生命を寸陰も延󠄅べ得んや」と譯す。] 26 ればいとちひさことすらあたはぬに、なんほかのことをおもわづらふか。 27 百合ゆり[*]おもよ、つむがず、らざるなり。れどわれなんぢらにぐ、榮華えいぐわきはめたるソロモンだに服󠄃裝よそほひこのはなひとつにもかざりき。[*或は「野の花」と譯す。] 28 今日けふありて、明日あすれらるるくさをも、かみよそほたまへば、ましなんぢらをや、ああ信仰しんかううすきものよ、 29 なんぢらなに食󠄃ひ、なにまんともとむな、またこゝろうごかすな。 30 これみな異邦󠄆人いはうじんせつもとむる所󠄃ところなれど、なんぢらの父󠄃ちちこれものの、なんぢらに必要󠄃ひつえうなるをたまへばなり。 31 ただ[*]父󠄃ちち御國みくにもとめよ。さらばこれものは、なんぢらにくはへらるべし。[*異本「神の國」とあり。] 32 おそるなちひさむれよ、なんぢらに御國みくにたまふことは、なんぢらの父󠄃ちち御意みこゝろなり。 33 なんぢらの所󠄃有󠄃もちものりて施濟ほどこしをなせ。おのがためにふるびぬ財布さいふをつくり、きぬ財寳たからてんたくはへよ。かしこは盜人ぬすびと近󠄃ちかづかず、むしやぶらぬなり、 34 なんぢらの財寳たからのある所󠄃ところには、なんぢらのこゝろもあるべし。

35 なんぢら腰󠄃こしおびし、燈火ともしびをともしてれ。 36 主人しゅじん婚筵こんえんよりかへきたりてたゝかば、たゞちにひらくためにひとのごとくなれ。 37 主人しゅじんきたるとき、さましをるをらるるしもべどもは幸福さいはひなるかな。われ誠󠄃まことなんぢらにぐ、主人しゅじんおびしてしもべどもを食󠄃事しょくじせきかせ、進󠄃すゝみて給仕きふじすべし。
 144㌻ 
38 主人しゅじん半󠄃なかばごろもしくはくるころきたるとも、かくごとくなるをらるるしもべどもは幸福さいはひなり。 39 なんぢらこれ[*]れ、家主いへあるじもし盜人ぬすびといづれのとききたるかをらば、そのいへ穿󠄂うがたすまじ。[*或は「知る」と譯す。] 40 なんぢらもそなへをれ。ひとおもはぬとききたればなり』

41 ペテロふ『しゅよ、このたとへたまふはわれらにか、またすべてのひとにか』 42 しゅいひたま主人しゅじんときおよびてしもべどもにさだめかてあたへさするために、そのしもべどものうへつる忠實まめやかにして慧󠄄さと支󠄂配󠄃人しはいにんたれなるか、 43 主人しゅじんのきたるとき、かくるをらるるしもべ幸福さいはひなるかな。 44 われまことをもてなんぢらにぐ、主人しゅじんすべての所󠄃有󠄃もちものかれつかさどらすべし。 45 しそのしもべこゝろのうちに主人しゅじんきたるは遲󠄃おそしとおもひ、しもべ婢女はしためをたたき、飮食󠄃のみくひしてはじめなば、 46 そのしもべ主人しゅじん、おもはぬらぬとききたりて、これ[*]はげしくむちうち、そのむくいちゅうものおなじうせん。[*烈しく笞うち、或は「挽き斬り」と譯す。] 47 主人しゅじんこゝろりながら用意よういせず、又󠄂またそのこゝろしたがはぬしもべは、むちうたるることおほからん。〘106㌻〙 48 れどらずして、たるべきことをなすものは、むちうたるることすくなからん。おほあたへらるるものは、おほもとめられん。おほひとあづくれば、更󠄃さらおほくそのひとより請󠄃もとむべし。

49 われとうぜんとてきたれり。[*]すでにえたらんには、われまたなにをか望󠄇のぞまん。[*或は「われ何をか望󠄇まん、此の火の旣󠄁に燃えたらんことなり」と譯す。] 50 されどわれにはくべきバプテスマあり。その成󠄃遂󠄅げらるるまではおも逼󠄃せまること如何いかばかりぞや。 51 われ平󠄃和へいわあたへんためにきたるとおもふか。われなんぢらにぐ、しからず、かへつて分󠄃爭ぶんさうなり。 52 いまよりのち一家いっかにんあらば三人さんにん二人ふたりに、二人ふたり三人さんにん分󠄃わかあらそはん。 53 父󠄃ちちに、父󠄃ちちに、ははむすめに、むすめははに、姑姆しうとめよめに、よめ姑姆しうとめ分󠄃わかあらそはん』
 145㌻ 

54 イエスまた群衆ぐんじゅうたま『なんぢらくも西にしより起󠄃おこるをれば、たゞちにふ「急󠄃雨はやさめきたらん」と、はたしてしかり。 55 またみなみかぜふけば、なんぢいふ「つよあつさあらん」と、はたしてしかり。 56 僞善者ぎぜんしゃよ、なんぢてん氣色けはひわきまふることをりて、いまときわきまふることあたはぬはなんぞや。 57 またなにゆゑみづからたゞしきことさだめぬか。 58 なんぢうったふるものとともにつかさ往󠄃くとき、途󠄃みちにて和解わかいせんことをつとめよ。おそらくはうったふるもの、なんぢを審判󠄄さばきひときゆき、審判󠄄さばきひとなんぢを下役したやくにわたし、下役したやくなんぢをひとやれん。 59 われなんぢぐ、いちレプタものこりなくつくのはずば、其處そこづることあたはじ』

第13章

1 そのをりしもある人々ひとびときたりてピラトがガリラヤびとらのかれらの犧牲いけにへにまじへたりしことをイエスにげたれば、 2 こたへてたま『かのガリラヤびとかゝることに遭󠄃ひたるゆゑに、すべてのガリラヤびと勝󠄃まされる罪人つみびとなりしとおもふか。 3 われなんぢらにぐ、しからず、なんぢらも悔改くいあらためずば、みなおなじくほろぶべし。 4 又󠄂またシロアムのやぐらたふれて、壓󠄂ころされしじふ八人はちにんは、エルサレムに住󠄃めるすべてのひと勝󠄃まさりてつみ負󠄅債おひめあるものなりしとおもふか。 5 われなんぢらにぐ、しからず、なんぢらも悔改くいあらためずば、みなかくのごとくほろぶべし』〘107㌻〙

6 又󠄂またこのたとへかたりたまふあるひとおのが葡萄園ぶだうぞのゑありし無花果いちぢくきたりてもとむれどもずして、 7 園丁そのつくりふ「よ、われ三年さんねんきたりて無花果いちぢくもとむれどもず。これをたふせ、なんいたづらにふさぐか」 8 こたへてふ「しゅよ、今年ことしゆるしたまへ、われその周󠄃圍󠄃まはりりて肥料こやしせん。 9 そののちむすばばし、もしむすばずばたふしたまへ」』
 146㌻ 

10 イエス安息あんそくにち會堂くわいだうにてをしへえたまふとき 11 よ、じふはちねんのあひだ、やまひれいかれたるをんなあり、かゞまりてすこしもぶることあたはず。 12 イエスこのをんなせてをんなよ、なんぢはやまひよりかれたり』ひ、 13 これきたまへば、立刻󠄂たちどころぐにしてかみあがめたり。 14 會堂くわいだうつかさイエスの安息あんそくにちやまひいやたまひしことをいきどほり、こたへて群衆ぐんじゅうふ『はたらくべき六日むゆかあり、そのあひだきたりていやされよ。安息あんそくにちにはざれ』 15 しゅこたへてひたまふ僞善者ぎぜんしゃらよ、なんぢおのおの安息あんそくにちには、おのうしまたは驢馬ろば小屋こやよりきいだし、みづはんとて牽󠄁往󠄃かぬか。 16 さらばながじふはちねんあひだサタンに縛󠄃しばられたるアブラハムのむすめなるをんなは、安息あんそくにちにそのつなぎよりかるべきならずや』 17 イエスこれのことをたまへば、逆󠄃さからものはみなぢ、群衆ぐんじゅうこぞりてそのたまへる榮光えいくわうあるすべてのわざよろこべり。

18 かくてイエスひたまふかみくになにたるか、われこれをなになずらへん、 19 一粒ひとつぶ芥種からしだねのごとし。ひとこれをりておのれそのきたれば、そだちてとなり、空󠄃そらとりそのえだ宿やどれり』 20 またひたまふかみくになになずらへんか、 21 パンだねのごとし。をんなこれをりて、さん粉󠄃なかるれば、ことごとくふくれいだすなり』

22 イエスをしへつつ町々まちまち村々むらむら過󠄃ぎて、エルサレムに旅󠄃たびたまふとき、 23 あるひといふ『しゅよ、すくはるるものすくなきか』 24 イエス人々ひとびとひたまふちからつくしてせまもんよりれ。われなんぢらにぐ、らんこともとめてあたはぬものおほからん。 25 家主いへあるじおきてもんぢたるのち、なんぢらそとちて「しゅわれらにひらたまへ」とひつつもんたゝはじめんに、主人あるじこたへて「われなんぢらが何處いづこものなるかをらず」とはん。 26 そのとき「われらは御前󠄃みまへにて飮食󠄃のみくひし、なんぢはわれらのまち大路おほじにてをしたまへり」とでんに、
 147㌻ 
27 主人あるじこたへて「われなんぢらが何處いづこものなるかをらず、あくをなすものどもよ、みなわれをはなれ」とはん。 28 なんぢらアブラハム、イサク、ヤコブおよすべての預言者よげんしゃの、かみくにり、おのれらの逐󠄃いださるるをば、其處そこにて哀哭なげき切齒はがみすることあらん。〘108㌻〙 29 また人々ひとびとひがしより西にしよりみなみよりきたよりきたりて、かみくにえんくべし。 30 よ、あとなるものさきになり、さきなるものあとになることあらん』

31 そのときるパリサイびとら、イエスにきたりてふ『いでて此處ここたまへ、ヘロデなんぢころさんとす』 32 こたへてたま往󠄃きてかのきつねへ。よ、われ今日けふ明日あす惡鬼あくき逐󠄃いだし、やまひいやし、しかして三日みっかめに全󠄃まったうせられん。 33 されど今日けふ明日あす次󠄄つぎわれ進󠄃すゝ往󠄃くべし。それ預言者よげんしゃのエルサレムのほかにてぬることは有󠄃るまじきなり。 34 あゝエルサレム、エルサレム、預言者よげんしゃたちをころし、遣󠄃つかはされたる人々ひとびといしにてものよ、牝鷄めんどりおのひな翼󠄅つばさのうちにあつむるごとく、われなんぢのどもをあつめんとせしこと幾度いくたびぞや。れどなんぢらはこのまざりき。 35 よ、なんぢらのいへてられてなんぢらに遺󠄃のこらん。われなんぢらにぐ、「むべきかな、しゅによりてきたもの」と、なんぢらのときいたるまでは、われざるべし』

第14章

1 イエス安息あんそくにち食󠄃事しょくじせんとて、るパリサイびとかしらいへたまへば、人々ひとびとこれをうかゞふ。 2 よ、御前󠄃みまへ水腫すゐきをわづらふひとゐたれば、 3 イエスこたへて敎法師けうほふしとパリサイびととにひたまふ安息あんそくにちひといやすことはしやいなや』 4 かれら默然もくねんたり。イエスそのひとり、いやしてらしめ、 5 かつかれらにたま『なんぢらのうちその[*]あるひはうしゐどおちいらんに、安息あんそくにちにはたゞちにこれ引揚ひきあげぬものあるか』[*異本「驢馬」とあり。] 6 かれこれにたいしてものふことあたはず。
 148㌻ 

7 イエスまねかれたるものの、上席じゃうせきをえらぶをたとへをかたりてたまふ、 8 『なんぢ婚筵こんえんまねかるるとき、上席じゃうせきくな。おそらくはなんぢよりもたふとひとまねかれんに、 9 なんぢかれとをまねきたるものきたりて「このひとせきゆづれ」とはん。さらばときなんぢぢて末席ばっせき往󠄃きはじめん。 10 まねかるるとき、むし往󠄃きて末席ばっせきけ、さらばまねきたるものきたりて「ともよ、かみ進󠄃すゝめ」とはん。そのときなんぢ同席どうせきもの前󠄃まへほまれあるべし。 11 おほよそおのれをたかうするものひくうせられ、おのれひくうするものたかうせらるるなり』

12 またおのれまねきたるものにもたま『なんぢ晝餐󠄃ひるげまたは夕餐󠄃ゆふげまうくるとき、朋友ほういう兄弟きゃうだい親族しんぞくめるとなりひとなどをよぶな。おそらくはかれらもまたなんぢをまねきてむくいをなさん。 13 饗宴ふるまひまうくるときは、むし貧󠄃まづしきもの不具󠄄かたは跛者あしなへ盲人めしひなどをまねけ。〘109㌻〙 14 かれらはむくゆることあたはぬゆゑに、なんぢ幸福さいはひなるべし。たゞしきもの復活よみがへりときむくいらるるなり』

15 同席どうせきもの一人ひとりこれらのこときてイエスにふ『おほよそかみくににて食󠄃事しょくじするもの幸福さいはひなり』 16 これひたまふあるひと盛󠄃さかんなる夕餐󠄃ゆふげまうけて、おほくのひとまねく。 17 夕餐󠄃ゆふげときいたりて、まねきおきたるものもとしもべ遣󠄃つかはして「きたれ、旣󠄁すでそなはりたり」とはしめたるに、 18 みなひとしくことわりはじむ。はじめものいふ「われ田地でんちへり。往󠄃きてざるをず。請󠄃ふ、ゆるされんことを」 19 ほかものいふ「われいつ耜󠄃くびきうしへり、これためすために往󠄃くなり。請󠄃ふ、ゆるされんことを」 20 またほかものいふ「われつまめとれり、ゆゑ往󠄃くことあたはず」 21 しもべかへりてこれことをその主人しゅじんぐ、家主いへあるじいかりてしもべふ「とくまち大路おほじ小路こうぢとに往󠄃きて、貧󠄃まづしきもの不具󠄄かたはもの盲人めしひ跛者あしなへなどを此處ここ連󠄃れきたれ」
 149㌻ 
22 しもべいふ「しゅよ、おほせのごとくしたれど、あまりせきあり」 23 主人しゅじんしもべふ「道󠄃みち籬󠄂まがき邊󠄎ほとりにゆき、人々ひとびとひて連󠄃れきたり、いへたしめよ。 24 われなんぢらにぐ、かのまねきおきたるもののうち、一人ひとりだに夕餐󠄃ゆふげあぢはものなし」』

25 さておほいなる群衆ぐんじゅうイエスに伴󠄃ともなひゆきたれば、顧󠄃かへりみてこれひたまふ、 26 ひともしわれきたりて、その父󠄃ちちははつま兄弟きゃうだい姉妹しまいおの生命いのちまでも憎にくまずば、弟子でしとなるをず。 27 またおの十字架じふじか負󠄅ひてわれしたがものならでは、弟子でしるをず。 28 なんぢらのうちたれかやぐらきづかんとおもはば、してつひえをかぞへ、おの所󠄃有󠄃もちもの竣工しゅんこうまでにるかいなかをはからざらんや。 29 しからずしてもとゐゑ、もし成󠄃就じゃうじゅすることあたはずば、ものみな嘲󠄂笑あざわらひて、 30 「このひときづきかけて成󠄃就じゃうじゅすることあたはざりき」とはん。 31 又󠄂またいづれのわうでてほかわう戰爭たゝかひをせんに、して、一萬いちまんにんをもて、かの二萬にまんにん率󠄃ひきゐきたるものむかるかいなはからざらんや。 32 もしかずば、てきなほ遠󠄄とほ隔󠄃へだてるうちに使󠄃つかひ遣󠄃つかはして和睦わぼく請󠄃ふべし。 33 かくのごとくなんぢらのうちその一切すべて所󠄃有󠄃もちもの退󠄃しりぞくるものならでは、弟子でしとなるをず。 34 しほきものなり、れどしほもし效力かうりょくうしなはば、なにによりてかあぢつけられん。 35 つちにも肥料こえにも適󠄄てきせず、そとてらるるなり。みみあるものくべし』〘110㌻〙

第15章

1 取税人しゅぜいにん罪人つみびとどもみな御言みことばかんとて近󠄃寄ちかよりたれば、 2 パリサイびと學者がくしゃつぶやきてふ、『このひと罪人つみびと迎󠄃むかへて食󠄃しょくともにす』
 150㌻ 

3 イエスこれたとへかたりてたまふ、 4 『なんぢらのうちたれか百匹󠄃ひゃくひきひつじ有󠄃たんに、もしその一匹󠄃いっぴきうしなはば、じふ匹󠄃ひきにおき、往󠄃きてせたるものいだすまでは尋󠄃たづねざらんや。 5 遂󠄅つひ見出みいださば、よろこびてこれおの肩󠄃かたにかけ、 6 いへかへりてともとなりひととをあつめてはん「われとともによろこべ、せたるひつじ見出みいだせり」 7 われなんぢらにぐ、かくのごとく悔改くいあらたむる一人ひとり罪人つみびとのためには、悔改くいあらため必要󠄃ひつえうなきじふにんたゞしきものにも勝󠄃まさりて、てん歡喜よろこびあるべし。

8 又󠄂またいづれのをんな銀貨ぎんくわじふまい有󠄃たんに、しそのいちまいうしなはば、燈火ともしびをともし、いへ掃󠄃きていだすまではねんごろに尋󠄃たづねざらんや。 9 遂󠄅つひ見出みいださば、ともとなりひととをあつめてはん、「われとともによろこべ、わがうしなひたる銀貨ぎんくわ見出みいだせり」 10 われなんぢらにぐ、かくのごとく悔改くいあらたむる一人ひとり罪人つみびとのために、かみ使󠄃つかひたちの前󠄃まへ歡喜よろこびあるべし』

11 またひたまふあるひと二人ふたり息子むすこあり、 12 おとうと父󠄃ちちふ「父󠄃ちちよ、財產ざいさんのうちくべき分󠄃ぶんわれにあたへよ」父󠄃ちちその身代しんだい二人ふたり分󠄃けあたふ。 13 幾日いくひぬに、おとうとおのがものをことごとくあつめて、遠󠄄國ゑんごくにゆき、其處そこにて放蕩はうたうにその財產ざいさんちらせり。 14 ことごとくつひやしたるのち、そのくにおほいなる饑󠄃饉ききんおこり、みづかとぼしくなりはじめたれば、 15 往󠄃きてあるひと依附よりすがりしに、ひとかれをはた遣󠄃つかはしてぶたはしむ。 16 かれぶた食󠄃くらいなごまめにて、おのはらみたさんとおも程󠄃ほどなれどなにをもあたふるひとなかりき。 17 のときわれかへりてふ『わが父󠄃ちちもとには食󠄃物しょくもつあまれる雇󠄃人やとひびといくばくぞや、しかるにわれ飢󠄄ゑてこのところなんとす。 18 起󠄃ちて父󠄃ちちにゆき「父󠄃ちちよ、われはてんたいし、またなんぢ前󠄃まへつみをかしたり。 19 いまよりなんぢ稱󠄄となへらるるに相應ふさはしからず、雇󠄃人やとひびと一人ひとりのごとくたまへ』とはん」
 151㌻ 
20 すなは起󠄃ちて父󠄃ちちのもとに往󠄃く。なほ遠󠄄とほ隔󠄃へだてりたるに、父󠄃ちちこれをあはれみ、はしりゆき、くび抱󠄃いだきて接吻くちつけせり。 21 父󠄃ちちにいふ「父󠄃ちちよ、われてんたい又󠄂またなんぢの前󠄃まへつみをかしたり。いまよりなんぢ稱󠄄となへらるるに相應ふさはしからず」 22 れど父󠄃ちちしもべどもにふ「とくとく最上さいじゃうころもきたりてこれせ、その指輪ゆびわをはめ、あしくつをはかせよ。 23 またえたるこうし牽󠄁ききたりて屠󠄃ほふれ、われ食󠄃しょくしてたのしまん。〘111㌻〙 24 このにてまたき、せてまたられたり」かくて、かれらたのしみはじむ。 25 しかるにあにはたにありしが、かへりていへ近󠄃ちかづきたるとき、音󠄃樂なりもの舞踏をどりとの音󠄃おとき、 26 しもべ一人ひとりびてその何事なにごとなるかをふ。 27 こたへてふ「なんぢの兄弟きゃうだいかへりたり、そのつゝがなきを迎󠄃むかへたれば、なんぢ父󠄃ちちえたるこうし屠󠄃ほふれるなり」 28 あにいかりてうちることをこのまざりしかば、父󠄃ちちいでて勸󠄂すゝめしに、 29 こたへて父󠄃ちちふ「よ、われ幾歳いくとせも、なんぢにつかへて、いまなんぢ命令めいれいそむきしことなきに、われには山羊やぎ一匹󠄃いっぴきだにあたへてともたのしましめしことなし。 30 しかるに遊󠄃女あそびめらとともに、なんぢ身代しんだい食󠄃くらつくしたるなんぢかへきたれば、これがためにえたるこうし屠󠄃ほふれり」 31 父󠄃ちちいふ「よ、なんぢはつねわれとともにり、わがものみななんぢのものなり。 32 れどなんぢ兄弟きゃうだいにてまたき、せてまたられたれば、われらのたのしみよろこぶは當然たうぜんなり」』

第16章

1 イエスまた弟子でしたちにたまあるめるひと一人ひとり支󠄂配󠄃人しはいにんあり、主人しゅじん所󠄃有󠄃もちものつひやしをりとうったへられたれば、 2 主人しゅじんかれをびてふ「わがなんぢにつきて所󠄃ところは、これ何事なにごとぞ、つとめ報吿はうこくをいだせ、なんぢこののち支󠄂配󠄃人しはいにんたるをじ」 3 支󠄂配󠄃人しはいにんこゝろのうちにふ「如何いかにせん、主人しゅじんわがつとめうばふ。われつちるにはちからなく、ものふははづかし。
 152㌻ 
4 われなすべきことこそりたれ、つとめめらるるとき、人々ひとびとそのいへわれ迎󠄃むかふるならん」とて、 5 主人しゅじん負󠄅債者ふさいしゃ一人ひとり一人ひとりびよせて、はじめものふ「なんぢ主人しゅじんより負󠄅ふところなに程󠄃ほどあるか」 6 こたへてふ「あぶらひゃくたる支󠄂配󠄃人しはいにんいふ「なんぢの證書しょうしょをとり、はやしてじふけ」 7 又󠄂またほかのものふ「負󠄅ふところなに程󠄃ほどあるか」こたへてふ「むぎひゃくこく支󠄂配󠄃人しはいにんいふ「なんぢの證書しょうしょをとりてはちじふけ」 8 こゝ主人しゅじん不義ふぎなる支󠄂配󠄃人しはいにんししことたくみなるによりて、かれめたり。このらは、おの時代じだいことには、ひかりらよりもたくみなり。 9 われなんぢらにぐ、不義ふぎとみをもて、おのがためにともをつくれ。さらばとみするとき、そのともなんぢらを永遠󠄄とこしへ住󠄃居すまひ迎󠄃むかへん。 10 小事せうじちゅうなるもの大事だいじにもちゅうなり。小事せうじちゅうなるもの大事だいじにもちゅうなり。 11 らばなんぢもし不義ふぎとみちゅうならずば、たれ眞󠄃まこととみなんぢらにまかすべき。 12 またなんぢもしひとのものにちゅうならずば、たれなんぢのものをなんぢらにあたふべき。 13 しもべ二人ふたりしゅ兼󠄄かねつかふることあたはず、あるひこれ憎にくかれあいし、あるひこれしたしみかれかろしむべければなり。なんぢかみとみとに兼󠄄かねつかふることあたはず』〘112㌻〙

14 こゝよくふかきパリサイびとこのすべてのこときてイエスを嘲󠄂笑あざわらふ。 15 イエスかれらにたま『なんぢらはひとのまへにおのれとするものなり。れどかみなんぢらのこゝろりたまふ。ひとのなかに尊󠄅たふとばるるものは、かみのまへに憎にくまるるものなり。 16 律法おきて預言者よげんしゃとは、ヨハネまでなり、そのときよりかみくに宣傳のべつたへられ、ひとみなはげしくめてこれる。 17 されど律法おきて一畫いっかくつるよりもてん過󠄃往󠄃くはやすし。 18 すべてそのつまいだして、ほかめとものは、姦淫かんいんおこなふなり。またをっとよりいだされたるをんなめともの姦淫かんいんおこなふなり。
 153㌻ 

19 めるひとあり、紫色むらさきころも細布ほそぬのとをて、日々ひびおごたのしめり。 20 又󠄂またラザロといふ貧󠄃まづしきものあり、腫物しゅもつにてれただれ、めるひともんかれ、 21 その食󠄃卓しょくたくよりつるものにて飽󠄄かんとおもふ。しかしていぬどもきたりて腫物しゅもつねぶれり。 22 遂󠄅つひにこの貧󠄃まづしきものに、御使󠄃みつかひたちにたづさへられてアブラハムの懷裏ふところれり。めるひともまたにてはうむられしが、 23 黃泉よみにて苦惱くるしみうちよりげてはるかにアブラハムと懷裏ふところにをるラザロとをる。 24 すなはびてふ「父󠄃ちちアブラハムよ、われあはれみて、ラザロを遣󠄃つかはし、そのゆびさきみづ浸󠄃ひたしてしたひやさせたまへ、われはこのほのほのなかにもだゆるなり」 25 アブラハムふ「よ、おもへ、なんぢはけるあひだ、なんぢのものけ、ラザロはしきものけたり。いまここにてかれなぐさめられ、なんぢもだゆるなり。 26 しかのみならず此處ここよりなんぢらにわた往󠄃かんとすともず、其處そこよりわれらにきたぬために、われらとなんぢらとのあひだおほいなるふちさだめおかれたり」 27 めるひとまたふ「さらば父󠄃ちちよ、ねがはくは父󠄃ちちいへにラザロを遣󠄃つかはしたまへ。 28 われにん兄弟きゃうだいあり、この苦痛くるしみのところにきたらぬやう、かれらにあかしせしめたまへ」 29 アブラハムふ「かれらにはモーセと預言者よげんしゃとあり、これくべし」 30 めるひといふ「いな父󠄃ちちアブラハムよ、もし死人しにんうちよりかれらに往󠄃ものあらば、悔改くいあらためん」 31 アブラハムふ「もしモーセと預言者よげんしゃとにかずば、たとひ死人しにんうちよりよみがへるものありとも、勸󠄂すゝめ納󠄃れざるべし」』

第17章

1 イエス弟子でしたちにたま躓物つまづきかならきたらざるをず、されどこれきたらすもの禍害󠄅わざはひなるかな。 2 このちひさもの一人ひとりつまづかするよりは、むし碾臼ひきうすいしくびけられて、うみれられんかたきなり。
 154㌻ 
3 なんぢみづからこゝろせよ。もしなんぢ兄弟きゃうだいつみをかさば、これをいましめよ。もし悔改くいあらためなばこれをゆるせ。〘113㌻〙 4 もし一日いちにち七度なゝたびなんぢにつみをかし、七度なゝたび「くいあらたむ」とひて、なんぢかへらばこれをゆるせ』

5 使󠄃徒しとたちしゅふ『われらの信仰しんかうしたまへ』 6 しゅいひたま『もし芥種からしだね一粒ひとつぶほどの信仰しんかうあらば、[*]くはに「けて、うみうわれ」とふともなんぢらにしたがふべし。[*原語「スカミノ」] 7 なんぢのうちたれあるひ耕󠄃たがやし、あるひぼくするしもべ有󠄃たんに、そのしもべはたよりかへりたるとき、これにむかひて「たゞちにきた食󠄃しょくけ」とものあらんや。 8 かへつて「わが夕餐󠄃ゆふげそなへをなし、飮食󠄃のみくひするあひだ、おびして給仕きふじせよ、しかのちに、なんぢ飮食󠄃のみくひすべし」とふにあらずや。 9 しもべめいぜられしことしたればとて、主人しゅじんこれに謝󠄃しゃすべきか。 10 かくのごとくなんぢらもめいぜられしことをことごとくしたるとき「われらはえきなるしもべなり、すべきことしたるのみ」とへ』

11 イエス、エルサレムに往󠄃かんとて、サマリヤとガリラヤとのあひだをとほり、 12 あるむらたまふとき、じふにん癩病人らいびゃうにんこれに遇󠄃ひて、はるかとゞまり、 13 こゑげてふ『きみイエスよ、われらをあはれみたまへ』 14 イエスこれひたまふ『なんぢら往󠄃きて祭司さいしらにせよ』かれ往󠄃あひだ潔󠄄きよめられたり。 15 そのうち一人ひとり、おのがいやされたるをて、大聲おほごゑかみあがめつつかへりきたり、 16 イエスの足下あしもと平󠄃伏ひれふして謝󠄃しゃす。これはサマリヤびとなり。 17 イエスこたへてひたまふじふにんみな潔󠄄きよめられしならずや、にん何處いづこるか。 18 この他國人たこくにんのほかは、かみ榮光えいくわうせんとてかへりきたるものなきか』 19 かくこれひたまふ起󠄃ちて往󠄃け、なんぢの信仰しんかうなんぢをすくへり』

20 かみくに何時いつきたるべきかをパリサイびとはれしとき、イエスこたへてひたまふかみくにゆべきさまにてきたらず。
 155㌻ 
21 また「よ、此處ここり」「彼處かしこり」と人々ひとびとはざるべし。よ、かみくになんぢらのうちるなり』

22 かくて弟子でしたちにたま『なんぢらひと一日ひとひんとおもきたらん、れどることをじ。 23 そのとき、人々ひとびとなんぢらに「彼處かしこに、此處ここに」とはん、れど往󠄃くな、したがふな。 24 それ電光いなづまてん彼方かなたよりひらめきて、てん此方こなたかゞやくごとく、ひともそのにはしかあるべし。 25 れどひとおほくの苦難くるしみけ、かついまてらるべきなり。 26 ノアのにありしごとく、ひとにもしかあるべし。 27 ノア方舟はこぶねまでは、人々ひとびと食󠄃めととつぎなどたりしが、洪水こうずゐきたりてかれをことごとくほろぼせり。〘114㌻〙 28 ロトのにもかくのごとく、人々ひとびと食󠄃ひ、ひ、ゑつけ、造󠄃づくりなどたりしが、 29 ロトのソドムをでしに、てんより硫黃いわう降󠄄りて、かれをことごとくほろぼせり。 30 ひとあらはるるにも、そのごとくなるべし。 31 そのにはひともしうへにをりて、うつはものいへうちにあらば、これらんとてくだるな。はたにをるものおなじくかへるな。 32 ロトのつまおもへ。 33 おほよそおの生命いのち全󠄃まったうせんとするものは、これをうしなひ、うしなものは、これをたもつべし。 34 われなんぢらにぐ、そのふたりのをとこひと寢臺ねだいらんに、一人ひとりられ、一人ひとり遣󠄃つかはされん。 35 二人ふたりをんなともにうすひきらんに、一人ひとりられ、一人ひとり遣󠄃のこされん』 36 [なし][*][*異本「二人の男畑に居らんに、一人は取られ、一人は遺󠄃されん」との句あり。] 37 弟子でしたちこたへてふ『しゅよ、それは何處いづこぞ』イエスひたまふ屍體しかばねのあるところには[*]わしまたあつまらん』[*或は「兀鷹」と譯す。]

第18章

1 またかれらに落膽きおちせずしてつねいのるべきことを、たとへにてかたたま 2 あるまちかみおそれず、ひと顧󠄃かへりみぬ裁判󠄄人さいばんにんあり。
 156㌻ 
3 そのまち寡婦󠄃やもめありて、屡次󠄄しばしばそのもとにゆき「がためにあたさばきたまへ」とふ。 4 かれひさしくれざりしが、ののちこゝろうちふ「われかみおそれず、ひと顧󠄃かへりみねど、 5 寡婦󠄃やもめわれをわづらはせば、われかれがためさばかん、しからずばえずきたりてわれなやまさん」と』 6 しゅいひたま不義ふぎなる裁判󠄄人さいばんにんふことをけ、 7 ましてかみ夜晝よるひるよばはる選󠄄民せんみんのために、たと遲󠄃おそくとも遂󠄅つひさばたまはざらんや。 8 われなんぢらにぐ、速󠄃すみやかにさばたまはん。れどひときたるとき地上ちじゃう信仰しんかうんや』

9 またおのれしんじ、他人たにんかろしむるものどもにたとへひたまふ、 10 二人ふたりのものいのらんとてみやにのぼる、一人ひとりはパリサイびと、ひとりは取税人しゅぜいにんなり。 11 パリサイびと、たちてこゝろうちいのる「かみよ、われはほかのひとの、强奪うばひ不義ふぎ姦淫かんいんするがごとものならず、又󠄂またこの取税人しゅぜいにんごとくならぬを感謝󠄃かんしゃす。 12 われ一週󠄃ひとまはりのうちに二度ふたゝび斷食󠄃だんじきし、すべるものの十分󠄃じふぶんいちさゝぐ」 13 しかるに取税人しゅぜいにんはるかちて、てんくることだにせず、むねちてふ「かみよ、罪人つみびとなるわれあはれみたまへ」 14 われなんぢらにぐ、このひとは、かのひとよりもとせられて、おのいへくだ往󠄃けり。おほよそおのれたかうするものひくうせられ、おのれひくうするものたかうせらるるなり』〘115㌻〙

15 イエスのさはたまはんことを望󠄇のぞみて、人々ひとびと嬰兒みどりごらを連󠄃きたりしに、弟子でしたちこれいましめたれば、 16 イエス幼兒をさなごらをびよせてひたまふ幼兒をさなごらのわれきたるをゆるしてとゞむな、かみくにかくのごときものくになり。 17 われ誠󠄃まことなんぢらにぐ、おほよそ幼兒をさなごのごとくに、かみくにをうくるものならずば、これることはあたはず』
 157㌻ 

18 あるつかさひてふ『よ、われなにをなして永遠󠄄とこしへ生命いのちぐべきか』 19 イエスたま『なにゆゑわれしとふか、かみひとりのほかものなし。 20 誡命いましめは、なんぢが所󠄃ところなり「姦淫かんいんするなかれ」「ころすなかれ」「ぬすむなかれ」「僞證ぎしょうつるなかれ」「なんぢの父󠄃ちちははとをうやまへ」』 21 かれいふ『われおさなときよりみなこれをまもれり』 22 イエスこれをききてひたまふ『なんぢなほらぬことひとつあり、なんぢ有󠄃てるものを、ことごとくりて貧󠄃まづしきもの分󠄃わかあたへよ、らば財寳たからてんん。かつきたりてわれしたがへ』 23 かれこれをききていたかなしめり、おほいめるものなればなり。 24 イエスこれひたまふめるものかみくにるは如何いかかたいかな。 25 めるものかみくにるよりは、駱駝らくだはり穴󠄄あなをとほるはかへつてやすし』 26 これをきく人々ひとびといふ『さらばたれすくはるることん』 27 イエスひたまふひとのなしぬところは、かみのなし所󠄃ところなり』 28 ペテロふ『我等われらわが[*]ものをすててなんぢしたがへり』[*或は「我が家」と譯す。] 29 イエスたま『われ誠󠄃まことなんぢらにぐ、かみくにのために、あるひいへあるひつまあるひ兄弟きゃうだい、あるひは兩親ふたおや、あるひはつるものは、たれにても、 30 いまとき數󠄄倍すうばいけ、またのちにて、永遠󠄄とこしへ生命いのちけぬはなし』

31 イエス十二じふに弟子でし近󠄃ちかづけてひたまふよ、われらエルサレムにのぼる。ひとにつき預言者よげんしゃたちによりてしるされたるすべてのことは、成󠄃遂󠄅げらるべし。 32 ひと異邦󠄆人いはうじんわたされ、嘲󠄂弄てうろうせられ、はづかしめられ、つばきせられん。 33 かれこれをむちうち、かつころさん。かくかれ三日みっかめによみがへるべし』 34 弟子でしたちこれのことをひとつだにさとらず、ことばかれらにかくれたれば、そのたまひしことをらざりき。
 158㌻ 

35 イエス、エリコに近󠄃ちかづきたまふとき、一人ひとり盲人めしひみちかたはらにして、ものたりしが、 36 群衆ぐんじゅう過󠄃ぐるをきて、その何事なにごとなるかをふ。 37 人々ひとびとナザレのイエスの過󠄃ぎたまふよしげたれば、 38 盲人めしひよばはりてふ『ダビデのイエスよ、われあはれみたまへ』 39 さきだち往󠄃ものども、かれいましめてもださしめんとたれど、增々ますますさけびてふ『ダビデのよ、われあはれみたまへ』〘116㌻〙 40 イエスとゞま盲人めしひ連󠄃きたるべきことをめいたまふ。かれ近󠄃ちかづきたれば、 41 イエスたま『わがなんぢなにさんことを望󠄇のぞむか』かれいふ『しゅよ、えんことなり』 42 イエスかれることをよ、なんぢの信仰しんかうなんぢをすくへり』たまへば、 43 立刻󠄂たちどころることをかみあがめてイエスにしたがふ。たみみなこれかみ讃美さんびせり。

第19章

1 エリコにりて過󠄃ぎゆきたまふとき、 2 よ、をザアカイといふひとあり、取税人しゅぜいにんかしらにてめるものなり。 3 イエスの如何いかなるひとなるかをんとおもへど、丈󠄃たけひくうして群衆ぐんじゅうのためにることあたはず、 4 前󠄃まへはしりゆき、[*]くはにのぼる。イエスそのみち過󠄃ぎんとしたまゆゑなり。[*原語「スカモラ」] 5 イエス此處ここいたりしとき、あふひたまふ『ザアカイ、急󠄃いそぎおりよ、今日けふわれなんぢいへ宿やどるべし』 6 ザアカイ急󠄃いそぎおり、よろこびてイエスを迎󠄃むかふ。 7 人々ひとびとみなこれつぶやきてふ『かれは罪人つみびといへりてきゃくとなれり』 8 ザアカイちてしゅふ『しゅよ、わが所󠄃有󠄃もちもの半󠄃なかば貧󠄃まづしきものほどこさん、し、われうったへてひとよりりたる所󠄃ところあらば、ばいにしてつぐのはん』 9 イエスたま『けふすくひはこのいへきたれり、ひともアブラハムのなればなり。 10 それひときたれるは、せたるもの尋󠄃たづねてすくはんためなり』
 159㌻ 

11 人々ひとびとこれらのこときゐたるとき、たとへくはへてたまふ。これはイエス、エルサレムに近󠄃ちかづきたまひ、かみくにたちどころにあらはるべしとかれらがおもゆゑなり。 12 すなはひたまふ貴人きにんわうけんけてかへらんとて遠󠄄とほくに往󠄃くとき、 13 じふにんしもべをよび、これきんじふミナをわたしてふ「わがかへるまで商賣しゃうばいせよ」 14 しかるにたみかれを憎にくみ、あとより使󠄃つかひ遣󠄃つかはして「われらはひとわれらのわうとなることをほっせず」とはしむ。 15 貴人きにんわうけんをうけてかへきたりしとき、かねわたきたるしもべどもの、如何いか商賣しゃうばいせしかをらんとてかれらをばしむ。 16 はじめのもの進󠄃すゝでてふ「しゅよ、なんぢのいちミナはじふミナを贏󠄅まうけたり」 17 わういふ「いかな、しもべ、なんぢは小事せうじちゅうなりしゆゑ、とをまちつかさどるべし」 18 次󠄄つぎものきたりてふ「しゅよ、なんぢのいちミナはミナを贏󠄅まうけたり」 19 わうまたふ「なんぢもいつつのまちつかさどるべし」 20 また一人ひとりきたりてふ「しゅよ、なんぢのいちミナは此處ここり。われこれを袱紗ふくさ包󠄃つゝみてをさきたり。〘117㌻〙 21 これなんぢきびしきひとなるをおそれたるにる。なんぢはかぬものをり、かぬものをるなり」 22 わういふ「しきしもべ、われなんぢくちによりてなんぢさばかん。われきびしきひとにて、かぬものをり、かぬものをるをるか。 23 なにぞわがかね銀行ぎんかうあづけざりし、らばわれきたりて元金もときん利子りしとを請󠄃求せいきうせしものを」 24 かくかたはらにものどもにふ「かれのいちミナをりてじふミナを有󠄃てるひとわたせ」 25 かれいふ「しゅよ、かれは旣󠄁すでじふミナを有󠄃てり」 26 「われなんぢらにぐ、すべ有󠄃てるひとはなほあたへられ、有󠄃たぬひと有󠄃てるものをもらるべし。 27 しかしてわうたることほっせぬ、かのあたどもを、此處ここ連󠄃れきたり前󠄃まへにてころせ」』

28 イエスこれのことをひてのち、さきだち進󠄃すゝみてエルサレムにのぼたまふ。
 160㌻ 

29 オリブといふやまふもとなるベテパゲおよびベタニヤに近󠄃ちかづきしとき、イエス二人ふたり弟子でし遣󠄃つかはさんとしてたまふ、 30 むかひのむらにゆけ、其處そこらば一度ひとたびひとりたることなき驢馬ろばつなぎあるをん、それをきて牽󠄁ききたれ。 31 たれかもしなんぢらに「なにゆゑくか」とはば、ふべし「しゅようなり」と』 32 遣󠄃つかはされたるものゆきたれば、はたしてたまひしごとくなるをる。 33 かれら驢馬ろばをとくとき、その持主もちぬしどもふ『なにゆゑ驢馬ろばくか』 34 こたへてふ『しゅようなり』 35 かくて驢馬ろばをイエスのもと牽󠄁ききたり、おのころもをそのうへにかけて、イエスをせたり。 36 その往󠄃たまふとき、人々ひとびとおのがころも途󠄃みち敷󠄃く。 37 オリブやまくだりあたりまで近󠄃ちかづききたたまへば、れゐる弟子でしたちみなよろこびて、そのしところの能力ちからある御業みわざにつき、こゑたからかにかみ讃美さんびしてはじむ、 38むべきかな、しゅによりてきたわうてんには平󠄃和へいわ至高いとたかところには榮光えいくわうあれ』 39 群衆ぐんじゅうのうちのるパリサイびとら、イエスにふ『よ、なんぢの弟子でしたちをいましめよ』 40 こたへてたま『われなんぢらにぐ、のともがらもださば、いしさけぶべし』

41 旣󠄁すで近󠄃ちかづきたるとき、みやこやり、これがためにきてたまふ、 42 『ああなんぢ、なんぢもしこのうち平󠄃和へいわにかかはることりたらんには――れどいまなんぢのかくれたり。 43 きたりててきなんぢの周󠄃圍󠄃まはりるゐをきづき、なんぢ取圍󠄃とりかこみて四方しはうよりめ、 44 なんぢと、そのうちにあるらとを打倒うちたふし、ひとつのいしをもいしうへ遺󠄃のこさざるべし。なんぢ眷顧󠄃かへりみときらざりしにる』〘118㌻〙 45 かくみやり、あきなひするものどもを逐󠄃いだしはじめ、 46 これひたまふ『「わがいへいのりいへたるべし」としるされたるに、なんぢらはこれ强盜がうたうとなせり』
 161㌻ 

47 イエス日々ひゞみやにてをしへたまふ。祭司長さいしちゃう學者がくしゃおよたみ重立おもだちたるものどもこれころさんとおもひたれど、 48 たみみなみみかたむけて、イエスにきたればすべきかたらざりき。

第20章

1 あるイエスみやにてたみをしへ、福音󠄃ふくいんべゐたまふとき、祭司長さいしちゃう學者がくしゃらは、長老ちゃうらうどもととも近󠄃ちかづききたり、 2 イエスにかたりてふ『なにの權威󠄂けんゐをもてこれことをなすか、權威󠄂けんゐさづけしものたれか、われらにげよ』 3 こたへてたま『われも一言ひとことなんぢらにはん、こたへよ。 4 ヨハネのバプテスマはてんよりか、ひとよりか』 5 かれたがひろんじてふ『もし「てんより」とはば「なにゆゑかれをしんぜざりし」とはん。 6 もし「ひとより」とはんか、たみみなヨハネを預言者よげんしゃしんずるによりてわれらをいしにてたん』 7 遂󠄅つひ何處いづこよりからぬよしこたふ。 8 イエスひたまふ『われもなに權威󠄂けんゐをもてこれことをなすか、なんぢらにげじ』

9 かく次󠄄つぎたとへたみかたりいでたま『あるひと葡萄園ぶだうぞの造󠄃つくりて農夫のうふどもにし、遠󠄄とほ旅󠄃立たびだちしてひさしくなりぬ。 10 ときいたりて、葡萄園ぶだうぞの所󠄃得しょとく納󠄃をさめしめんとて、一人ひとりしもべ農夫のうふもと遣󠄃つかはししに農夫のうふどもこれちたたき、空󠄃手むなでにてかへらしめたり。 11 又󠄂またほかのしもべ遣󠄃つかはししに、これをもちたたきはづかしめ、空󠄃手むなでにてかへらしめたり。 12 なほ三度みたびめのもの遣󠄃つかはししに、これをもきずつけて逐󠄃いだしたり。 13 葡萄園ぶだうぞのぬしいふ「われなにさんか。いつくしむ遣󠄃つかはさん、あるひこれうやまふなるべし」 14 農夫のうふどもこれたがひろんじてふ「これは世嗣よつぎなり。いざころして嗣業しげふわれらのものとせん」 15 かくてこれを葡萄園ぶだうぞのそと逐󠄃いだしてころせり。さらば葡萄園ぶだうぞのぬし、かれらになにさんか、 16 きたりてかの農夫のうふどもをほろぼし、葡萄園ぶだうぞのほかものどもにあたふべし』人々ひとびとこれをきてふ『しかはあらざれ』
 162㌻ 
17 イエスかれらにめてたま『されば 「造󠄃家者いへつくりらのてたるいしは、 これぞすみ首石おやいしとなれる」としるされたるはなんぞや。 18 おほよそそのいしうへたふるるものくだけ、又󠄂またそのいしひとうへたふるれば、そのひと微塵みぢんにせん』〘119㌻〙

19 のとき學者がくしゃ祭司長さいしちゃうら、イエスにをかけんとおもひたれど、たみおそれたり。このたとへおのれどもをしてたまへるをさとりしにる。 20 かくてかれうかゞひ、イエスをつかさ支󠄂配󠄃しはい權威󠄂けんゐとのもとわたさんとて、そのことばとらふるために義人ぎじんさましたる間諜まはしものどもを遣󠄃つかはしたれば、 21 ものどもイエスにひてふ『よ、われらはなんぢたゞしくかたり、かつをしへ、外貌うはべらず、眞󠄃まことをもてかみ道󠄃みちをしたまふをる。 22 われらみつぎをカイザルに納󠄃をさむるは、きか、しきか』 23 イエスその惡巧わるだくみりてたまふ、 24 『デナリをわれせよ。これはたれ像󠄃かたち、たれのしるしなるか』『カイザルのなり』とこたふ。 25 イエスたま『さらばカイザルのものはカイザルに、かみものかみ納󠄃をさめよ』 26 かれらたみ前󠄃まへにてことばをとらへず、かつそのこたへあやしみてもだしたり。

27 また復活よみがへりなしとるサドカイびとあるものども、イエスにきたひてふ、 28よ、モーセはひと兄弟きゃうだい、もしつまあり、なくしてなば、兄弟きゃうだいかれのつまめとりて、兄弟きゃうだいのために嗣子よつぎぐべしと、われらに遣󠄃のこしたり。 29 さてこゝ七人しちにん兄弟きゃうだいありて、あにつまめとり、なくしてに、 30 第二だいに第三だいさんものこれめとり、 31 七人しちにんみなおなじくのこさずしてに、 32 のちにはをんなにたり。 33 されば復活よみがへりとき、このをんなたれつまたるべきか、七人しちにんこれをつまとしたればなり』
 163㌻ 
34 イエスたま『このらはめととつぎすれど、 35 かのるに、死人しにんうちよりよみがへるに、相應ふさはしとらるるものは、めととつぎすることなし。 36 かれははやぬることあたはざればなり。御使󠄃みつかひたちにひとしく、また復活よみがへりどもにして、かみ子供こどもたるなり。 37 にたるものよみがへることは、モーセもしばくだりに、しゅを「アブラハムのかみ、イサクのかみ、ヤコブのかみ」とびてこれしめせり。 38 かみにたるものかみにあらず、けるものかみなり。それかみ前󠄃まへにはみなけるなり』 39 學者がくしゃのうちのあるものどもこたへて『よ、たまへり』とふ。 40 かれははや、何事なにごとをもざりしゆゑなり。

41 イエスかれらにひたまふ如何いかなれば人々ひとびと、キリストをダビデのふか。 42 ダビデみづか篇󠄂へんふ、 「しゅわがしゅひたまふ、 43 われなんぢてきなんぢ足臺あしだいとなすまでは、 わがみぎせよ」 44 ダビデかれしゅ稱󠄄となふれば、いかでそのならんや』〘120㌻〙

45 たみみなききをるうちにて、イエス弟子でしたちにたまふ、 46 學者がくしゃらにこゝろせよ。かれらはながころもあゆむことをこのみ、市場いちばにての敬禮けいれい會堂くわいだう上座じゃうざ饗宴ふるまひ上席じゃうせきよろこび、 47 また寡婦󠄃やもめらのいへみ、外見みえをつくりてながいのりをなす。くる審判󠄄さばき更󠄃さらきびしからん』

第21章

1 イエスげて、める人々ひとびと納󠄃物をさめものを、賽錢函さいせんばこるるを 2 また貧󠄃まづしき寡婦󠄃やもめのレプタふたつをるるをたまふ、 3 『われまことをもてなんぢらにぐ、この貧󠄃まづしき寡婦󠄃やもめは、すべてのひとよりもおほれたり。
 164㌻ 
4 かれらはみなそのゆたかなるうちより納󠄃物をさめものなかれ、この寡婦󠄃やもめはそのとぼしきなかより、おの有󠄃てる生命いのちしろをことごとくれたればなり』

5 人々ひとびと美麗󠄃みごとなるいし獻物さゝげものとにてみや飾󠄃かざられたることかたりしに、イエスたまふ、 6 『なんぢらがこれものは、ひとつのいし崩󠄃くづされずしていしうへのこらぬきたらん』 7 かれひてふ『よ、さらばこれのことは何時いつあるか、又󠄂またこれらのこと成󠄃らんとするとき如何いかなる兆󠄃しるしあるか』 8 イエスたま『なんぢらまどはされぬようにこゝろせよ、おほくのものわがをかきたり「われはそれなり」とひ「とき近󠄃ちかづけり」とはん、かれらにしたがふな。 9 戰爭いくさ騷亂さわぎとのことくとき、づな。かゝることはづあるべきなり。れど終󠄃をはりたゞちにきたらず』

10 またひたまふ『「たみたみに、くにくに逆󠄃さからひて起󠄃たん」 11 かつおほいなる地震ぢしんあり、處々ところどころ疫病えきびゃう饑󠄃饉ききんあらん。おそるべきことてんよりのおほいなる兆󠄃しるしとあらん。 12 すべてこれのことにさきだちて、人々ひとびとなんぢらにをくだし、なんぢらをめん、すなはなんぢらを會堂くわいだうおよびひとやわたし、わがのためにわうたちつかさたちの前󠄃まへきゆかん。 13 これはなんぢらにあかしをりとならん。 14 ればなんぢ如何いかこたへんとあらかじめ思慮おもんぱかるまじきことこゝろさだめよ。 15 われなんぢらにすべ逆󠄃さからものの、逆󠄃さからひ、消󠄃すことをなしざるくち智慧󠄄ちゑとをあたふべければなり。 16 なんぢらは兩親ふたおや兄弟きゃうだい親族しんぞく朋友ほういうにさへわたされん。又󠄂またかれらはなんぢらのうちあるものころさん。 17 なんぢわがゆゑすべてのひと憎にくまるべし。 18 れどなんぢらのかしらひとすぢだにせじ。 19 なんぢらは忍󠄄耐にんたいによりて[*]靈魂たましひべし。[*或は「生命」と譯す。]
 165㌻ 

20 なんぢらエルサレムが軍勢ぐんぜい圍󠄃かこまるるをば、そのほろび近󠄃ちかづけりとれ。 21 そのときユダヤにものどもはやま遁󠄅のがれよ、みやこうちにをるものどもはでよ、田舍ゐなかにをるものどもはみやこるな、 22 これしるされたるすべてのこと遂󠄅げらるべき刑罰けいばつなり。〘121㌻〙 23 そのにはみごもりたるものと、乳󠄃ちゝのまするものとは禍害󠄅わざはひなるかな。おほいなる艱難なやみありて、御怒みいかりこのたみのぞみ、 24 かれらはつるぎ刃󠄃たふれ、又󠄂またとらはれて諸國しょこくかれん。しかしてエルサレムは異邦󠄆人いはうじんとき滿つるまで、異邦󠄆人いはうじん蹂躪ふみにじらるべし。 25 また月󠄃つきほし兆󠄃しるしあらん。にては國々くに〴〵たみなやみ、うみなみとのとゞろくによりて狼狽うろたへ、 26 人々ひとびとおそれ、かつ世界せかいきたらんとすることおもひてきもうしなはん。これてん萬象ばんしゃうふるうごけばなり。 27 のとき人々ひとびとひと能力ちからおほいなる榮光えいくわうとをもて、くもりきたるをん。 28 これらのこと起󠄃おこはじめなば、あふぎてかうべげよ。なんぢらの贖罪あがなひ近󠄃ちかづけるなり』

29 またたとへひたまふ無花果いちぢく、またすべてのよ、 30 旣󠄁すでめざせば、なんぢこれをてみづからなつ近󠄃ちかきをる。 31 かくのごとくこれのことの起󠄃おこるをば、かみくに近󠄃ちかきをれ。 32 われ誠󠄃まことなんぢらにぐ、これらのことことごとく成󠄃るまで、いま過󠄃ぎゆくことなし。 33 てん過󠄃ぎゆかん、れどことば過󠄃ぎゆくことなし。

34 なんぢみづからこゝろせよ、おそらくは飮食󠄃いんしょくにふけり、煩勞わずらひにまとはれてこゝろにぶり、おもひがけぬとき、かのわなのごとくきたらん。 35 これはあまねおもて住󠄃めるすべてのひとのぞむべきなり。 36 この起󠄃おこるべきすべてのことをのがれ、ひとのまへにるやう、つねいのりつつさましをれ』 37 イエスひるみやにてをしへ、よるでてオリブといふやま宿やどりたまふ。 38 たみはみな御敎みをしへかんとて、朝󠄃あさとくみやにゆき、御許みもとあつまれり。
 166㌻ 

第22章

1 さて過󠄃越すぎこしといふ除酵祭じょかうさい近󠄃ちかづけり。 2 祭司長さいしちゃう學者がくしゃらイエスをころさんとし、その手段てだていかにともとむ、たみおそれたればなり。

3 ときにサタン、十二じふに一人ひとりなるイスカリオテと稱󠄄となふるユダにる。 4 ユダすなは祭司長さいしちゃう宮守頭みやもりがしらどもに往󠄃きて、イエスを如何いかにしてわたさんとはかりたれば、 5 かれよろこびてかねあたへんとやくす。 6 ユダうべなひて群衆ぐんじゅうらぬときにイエスをわたさんとをりをうかがふ。

7 過󠄃越すぎこし羔羊こひつじ屠󠄃ほふるべき除酵祭じょかうさいきたりたれば、 8 イエス、ペテロとヨハネとを遣󠄃つかはさんとしてひたまふ往󠄃きてわれらの食󠄃しょくせんため過󠄃越すぎこしそなへをなせ』 9 かれふ『何處いづこそなふることを望󠄇のぞたまふか』 10 イエスひたまふよ、みやこらば、みづをいれたるかめひとなんぢらに遇󠄃ふべし、これしたがひゆき、その所󠄃ところいへにいりて、〘122㌻〙 11 いへ主人あるじに「なんぢにふ、われ弟子でしらととも過󠄃越すぎこし食󠄃しょくをなすべき座敷󠄃ざしき何處いづこなるか」とへ。 12 さらば調󠄃とゝのへたるおほいなる二階にかい座敷󠄃ざしきすべし。其處そこそなへよ』 13 かれら往󠄃きて、イエスのたまひしごとくなるを過󠄃越すぎこし設備そなへをなせり。 14 ときいたりてイエスせききたまひ、使󠄃徒しとたちもともく。 15 かくかれらにたま『われ苦難くるしみ前󠄃まへに、なんぢらとともにこの過󠄃越すぎこし食󠄃しょくをなすことを望󠄇のぞみに望󠄇のぞみたり。 16 われなんぢらにぐ、かみくににて過󠄃越すぎこし成󠄃就じゃうじゅするまではわれまたこれを食󠄃しょくせざるべし』 17 かくて酒杯さかづきけ、かつ謝󠄃しゃしてたま『これをりてたがひ分󠄃わかめ。
 167㌻ 
18 われなんぢらにぐ、かみくにきたるまでは、われいまよりのち葡萄ぶだうより成󠄃るものをまじ』 19 またパンを謝󠄃しゃしてさき、弟子でしたちにあたへてたま『これはなんぢらのためあたふるからだなり。記念きねんとしてこれおこなへ』 20 夕餐󠄃ゆふげののち酒杯さかづきをもしかしてたま『この酒杯さかづきなんぢらのためながによりてつるあたらしき契󠄅約けいやくなり。 21 れどよ、われもの、われととも食󠄃卓しょくたくうへにあり、 22 ひとは、さだめられたるごと逝󠄃くなり。れどこれをうるもの禍害󠄅わざはひなるかな』 23 弟子でしたちおのれらのうちにてことをなすものは、たれならんとたがひはじむ。

24 またかれらのあひだおのれらのうちたれかおほいならんとの爭論あらそひおこりたれば、 25 イエスひたまふ異邦󠄆人いはうじんわうは、そのたみつかさどり、またたみ支󠄂配󠄃しはいするものは、恩人おんじん稱󠄄となへらる。 26 れどなんぢらはしかあらざれ、なんぢのうちおほいなるものわかもののごとく、かしらたるものつかふるものごとくなれ。 27 食󠄃事しょくじせきものつかふるものとは、いづれかおほいなる。食󠄃事しょくじせきものならずや、れどわれなんぢらのうちにてつかふるもののごとし。 28 なんぢらは甞試こゝろみのうちにえずわれとともにりしものなれば、 29 わが父󠄃ちちわれにんたまへるごとく、われまたなんぢらにくににんず。 30 これなんぢらのくににて食󠄃卓しょくたく飮食󠄃のみくひし、かつ座位くらゐしてイスラエルの十二じふにやからさばかんためなり。 31 シモン、シモン、よ、サタンなんぢらをむぎのごとくふるはんとて請󠄃たり。 32 れどわれなんぢのためにその信仰しんかうせぬやうにいのりたり、なんぢかへりてのち兄弟きゃうだいたちをかたうせよ』 33 シモンふ『しゅよ、われなんぢとともにひとやにまでも、にまでも往󠄃かんと覺悟かくごせり』 34 イエスたま『ペテロよわれなんぢにぐ、今日けふなんぢ三度みたびわれをらずといなむまではにはとりかざるべし』〘123㌻〙
 168㌻ 

35 かく弟子でしたちにたま財布さいふふくろくつをもたせずしてなんぢらを遣󠄃つかはししとき、けたる所󠄃ところありしや』かれふ『かりき』 36 イエスたま『されどいま財布さいふあるものこれれ、ふくろあるものしかすべし。またつるぎなきものころもりてつるぎへ。 37 われなんぢらにぐ「かれは愆人とがにんとも數󠄄かぞへられたり」としるされたるは、成󠄃なし遂󠄅げらるべし。おほよわれかゝはること成󠄃なし遂󠄅げらるればなり』 38 弟子でしたちふ『しゅたまへ、こゝつるぎ二振ふたふりあり』イエスひたまふれり』

39 遂󠄅つひでてつねのごとく、オリブやま往󠄃たまへば、弟子でしたちもしたがふ。 40 其處そこいたりてかれらにひたまふ誘惑まどはしらぬやうにいのれ』 41 かくみづからはいしげらるる程󠄃ほどかれらより隔󠄃へだてり、ひざまづきていのひたまふ、 42 父󠄃ちちよ、御旨みむねならば、酒杯さかづきわれよりりたまへ、れどこゝろにあらずして御意みこゝろ成󠄃らんことをねがふ』 43 ときてんより御使󠄃みつかひあらはれて、イエスにちからふ。 44 イエスかなしみ迫󠄃せまり、いよいよせついのたまへば、あせ地上ちじゃうつるしづくごとし。 45 いのりへ、起󠄃ちて弟子でしたちのもとにきたり、そのうれひによりてねむれるをひたまふ、 46 『なんぞねむるか、起󠄃誘惑まどはしらぬやうにいのれ』 47 なほかたりゐたまふとき、よ、群衆ぐんじゅうあらはれ、十二じふに一人ひとりなるユダさきだちきたり、イエスに接吻くちつけせんとて近󠄃寄ちかよりたれば、 48 イエスたま『ユダ、なんぢは接吻くちつけをもてひとるか』 49 御側みそばものどもことおよばんとするをふ『しゅよ、われらつるぎをもてつべきか』 50 そのうち一人ひとりだい祭司さいししもべちて、みぎみみおとせり。 51 イエスこたへてひたまふこれにてゆるせ』しかしてしもべみみをつけていやたまふ。
 169㌻ 
52 かくておのれむかひてきたれる祭司長さいしちゃう宮守頭みやもりがしら長老ちゃうらうらにたま『なんぢら强盜がうたうむかふごとくつるぎぼうとをちてできたるか。 53 われ日々ひびなんぢらとともみやりしにうへべざりき。れどいまなんぢらのとき、また暗󠄃黑くらき權威󠄂けんゐなり』

54 遂󠄅つひ人々ひとびとイエスをとらへて、だい祭司さいしいへきゆく。ペテロ遠󠄄とほはなれてしたがふ。 55 人々ひとびと中庭󠄄なかにはのうちにきて、諸共もろともしたれば、ペテロもそのなかす。 56 婢女はしためペテロのひかりけてるを、これにそゝぎてふ『このひとかれともにゐたり』 57 ペテロうけがはずしてふ『をんなよ、われかれらず』 58 しばらくしてほかものペテロをふ『なんぢもかれ黨與ともがらなり』ペテロふ『ひとよ、しからず』 59 ひとときばかりして又󠄂またほかのをとこりてふ『まさしくひとかれとともにりき、これガリラヤびとなり』〘124㌻〙 60 ペテロふ『ひとよ、われなんぢのふことをらず』なほ終󠄃へぬにやがにはとりきぬ。 61 しゅ振反ふりかへりてペテロにをとめたまふ。ここにペテロしゅ今日けふにはとり前󠄃まへに、なんぢ三度みたびわれをいなまん』たまひし御言みことばおもひいだし、 62 そとでていたけり。

63 まもものどもイエスを嘲󠄂弄てうろうし、これち、 64 そのおほひてふ『預言よげんせよ、なんぢちしものたれなるか』 65 このほかなほおほくのことをひて、譏󠄃そしれり。

66 夜明よあけになりてたみ長老ちゃうらう祭司長さいしちゃう學者がくしゃあひあつまり、イエスをその議會ぎくわいいだしてふ、 67 『なんぢしキリストならば、われらにへ』イエスたま『われふともなんぢしんぜじ、 68 又󠄂またわれふともなんぢこたへじ。 69 れどひといまよりのちかみ能力ちからみぎせん』 70 みないふ『さればなんぢかみなるか』こたたま『なんぢらのふごとくわれはそれなり』
 170㌻ 
71 かれふ『なにぞなほほか證據しょうこもとめんや。われみづからそのくちよりけり』

第23章

1 民衆みんしゅうみな起󠄃ちて、イエスをピラトの前󠄃まへきゆき、 2 うったでてふ『われらひとが、わがくにたみまどはし、みつぎをカイザルに納󠄃をさむるをきんじ、かつみづかわうなるキリストと稱󠄄となふるを認󠄃みとめたり』 3 ピラト、イエスにひてふ『なんぢはユダヤびとわうなるか』こたへてたま『なんぢのふがごとし』 4 ピラト祭司長さいしちゃうらと群衆ぐんじゅうとにふ『われひととがあるをず』 5 かれますますつのり『かれはユダヤ全󠄃國ぜんこくをしへをなしてたみさわがし、ガリラヤよりはじめて、此處ここいたる』とふ。 6 ピラトこれき、そのガリラヤびとなるかをひて、 7 ヘロデの權下けんかものなるをり、ヘロデころエルサレムにたれば、イエスをそのもと送󠄃おくれり。 8 ヘロデ、イエスをいたよろこぶ。これはかれきて所󠄃ところありたれば、ひさしくはんことをほっし、なにをかしるしおこなふをんと望󠄇のぞたるゆゑなり。 9 かくておほくのことばをもてひたれど、イエスなにをもこたたまはず。 10 祭司長さいしちゃう學者がくしゃ起󠄃ちて激甚ていたくイエスをうったふ。 11 ヘロデその兵卒へいそつともにイエスをあなどり、かつ嘲󠄂弄てうろうし、華美はなやかなるころもせて、ピラトに返󠄄かへす。 12 ヘロデとピラトと前󠄃さきにはあたたりしが、たがひにしたしくなれり。

13 ピラト、祭司長さいしちゃうらとつかさらとたみとをあつめてふ、 14なんぢらこのひとたみまどはものとしてきたれり。よ、われなんぢらの前󠄃まへにてただしたれど、うったふる所󠄃ところきて、このひととがあるをず。〘125㌻〙 15 ヘロデもまたしかり、かれわれらに返󠄄かへしたり。よ、かれあたるべきわざさざりき。 16 さればこらしめてこれゆるさん』 17 [なし][*][*異本「かれは祭每に必す一人を赦すべきなり」との句あり。] 18 民衆みんしゅうともにさけびてふ『このひとのぞけ、われらにバラバをゆるせ』
 171㌻ 
19 のバラバは、みやこ起󠄃おこりし一揆いっき殺人ひとごろしとのゆゑによりて、ひとやれられたるものなり。 20 ピラトはイエスをゆるさんとほっして、ふたゝかれらにげたれど、 21 かれさけびて『十字架じふじかにつけよ、十字架じふじかにつけよ』とふ。 22 ピラト三度みたびまで『かれなに惡事あくじししか、われそのあたるべきわざず、ゆゑこらしめてゆるさん』とふ。 23 されど人々ひとびと大聲おほごゑをあげ迫󠄃せまりて、十字架じふじかにつけんことをもとめたれば、遂󠄅つひにそのこゑ勝󠄃てり。 24 ここにピラトそのもとめごとくすべしと言渡いひわたし、 25 そのもとむるままに、かの一揆いっき殺人ひとごろしとのゆゑによりてひとやれられたるものゆるし、イエスをわたしてかれらのこゝろままならしめたり。

26 人々ひとびとイエスをきゆくとき、シモンといふクレネびと田舍ゐなかよりきたるをとらへ、十字架じふじか負󠄅はせてイエスのうしろしたがはしむ。

27 たみおほいなるむれと、なげかなしめるをんなたちのむれこれしたがふ。 28 イエス振反ふりかへりてをんなたちにたま『エルサレムのむすめよ、わがためくな、ただおのがため、おののためにけ。 29 よ「石婦󠄃うまずめまぬはらませぬ乳󠄃ちち幸福さいはひなり」ときたらん。 30 そのときひとびと「やまむかひてわれらのうへたふれよ、をかむかひてわれらをおほへ」とでん。 31 もしあをさば、枯樹かれき如何いかにせられん』

32 またほか二人ふたり惡人あくにんをも、死罪しざいおこなはんとてイエスとともきゆく。

33 髑髏されかうべといふところいたりて、イエスを十字架じふじかにつけ、また惡人あくにん一人ひとりをそのみぎ一人ひとりをそのひだり十字架じふじかにつく。 34 かくてイエスひたまふ父󠄃ちちよ、かれらをゆるたまへ、その所󠄃ところらざればなり』かれらイエスのころも分󠄃わかちて䰗取くじとりにせり、
 172㌻ 
35 たみちてゐたり。つかさたちも嘲󠄂あざけりてふ『かれは他人たにんすくへり、もしかみ選󠄄えらたまひしキリストならば、おのれをもすくへかし』 36 兵卒へいそつどもも嘲󠄂弄てうろうしつつ、近󠄃ちかよりて葡萄酒ぶだうしゅをさしいだしてふ、 37 『なんぢしユダヤびとわうならば、おのれすくへ』 38 又󠄂またイエスのうへには『これはユダヤびとわうなり』との罪標すてふだあり。

39 十字架じふじかけられたる惡人あくにん一人ひとり、イエスを譏󠄃そしりてふ『なんぢはキリストならずや、おのれわれらとをすくへ』〘126㌻〙 40 ほかものこれにこたいましめてふ『なんぢおなじくつみさだめられながら、かみおそれぬか。 41 われらはししことむくいくるなれば當然たうぜんなり。されどひとなにぜんをもさざりき』 42 またふ『イエスよ、御國みくにたまふとき、われおぼえたまえ』 43 イエスたま『われ誠󠄃まことなんぢぐ、今日けふなんぢはわれともにパラダイスにるべし』

44 ひる十二じふにごろ、ひかりをうしなひ、のうへあまね暗󠄃くらくなりて、三時さんじおよび、 45 聖󠄃所󠄃せいじょまく眞󠄃中まなかよりけたり。 46 イエス大聲おほごゑよばはりてひたまふ父󠄃ちちよ、わがれい御手みてにゆだぬ』ひていきえたまふ。 47 百卒長ひゃくそつちゃうこの有󠄃りしことて、かみあがめてふ『じつにこのひと義人ぎじんなりき』 48 これをんとてあつまりたる群衆ぐんじゅうも、ありしことどもをて、みなむねちつつかへれり。 49 すべてイエスの相識しるべものおよびガリラヤよりしたがきたれるをんなたちも、はるかちてこれのことをたり。

50 議員ぎゐんにしてぜんかつなるヨセフといふひとあり。 51 ――このひとはかの評󠄃議ひゃうぎ仕業しわざとにくみせざりき――ユダヤのまちなるアリマタヤのものにて、かみくにちのぞめり。 52 ひとピラトのもとにゆき、イエスの屍體しかばねひ、 53 これをりおろし、亞麻󠄃あまぬのにて包󠄃つつみ、いはりたるいまひとはうむりしことなきはか納󠄃をさめたり。
 173㌻ 
54 この準備そなへなり、かつ安息あんそくにち近󠄃ちかづきぬ。 55 ガリラヤよりイエスとともきたりしをんなたちあとしたがひ、そのはか屍體しかばね納󠄃をさめられたるさまとを 56 かへりて香料かうれうにほひあぶらとをそなふ。   かく誡命いましめ遵󠄅したがひて、安息あんそくにちやすみたり。

第24章

1 一週󠄃ひとまはりはじめ朝󠄃あさまだき、をんなたちそなへたる香料かうれうたづさへてはかにゆく。 2 しかるにいし旣󠄁すではかよりまろばけあるを 3 うちりたるに、しゅイエスの屍體しかばねず、 4 これがため狼狽うろたへをりしに、よ、かゞやけるころもたる二人ふたりひとそのかたはらにてり。 5 をんなたちおそれておもてせたれば、その二人ふたりものいふ『なんぞにしものどものうちけるもの尋󠄃たづぬるか。 6 かれ此處ここいまさず、よみがへりたまへり。なほガリラヤに居給ゐたまへるとき、如何いかかたたまひしかをおもでよ。 7 すなはひとかならつみあるひとわたされ、十字架じふじかにつけられ、かつ三日みっかめによみがへるべし」たまへり』 8 ここにかれらその御言みことばおもで、 9 はかよりかへりて、すべこれのことをじふいち弟子でしおよびすべほか弟子でしたちにぐ。〘127㌻〙 10 このをんなたちはマグダラのマリヤ、ヨハンナおよびヤコブのははマリヤなり、しかしてかれらとともりしほかをんなたちも、これ使󠄃徒しとたちにげたり。 11 使󠄃徒しとたちはことば妄語たはごとおもひてしんぜず。 12[*]ペテロは起󠄃ちてはかはしりゆき、かがみてぬののみあるを、ありしことあやしみつつかへれり〕[*異本十二節を缺く。]

13 よ、この二人ふたり弟子でし、エルサレムより三里さんりばかり隔󠄃へだたりたるエマオといふむら往󠄃きつつ、 14 すべ有󠄃りしことどもをたがひかたりあふ。 15 かたりかつろんじあふ程󠄃ほどに、イエスみづか近󠄃ちかづきてとも往󠄃たまふ。 16 されどかれらの遮󠄄へられて、イエスたるを認󠄃みとむることあたはず。
 174㌻ 
17 イエスかれらにたま『なんぢらあゆみつつたがひかたりあふことなんぞや』かれらかなしげなるさまにてとゞまり、 18 その一人ひとりなるクレオパとづくるものこたへてふ『なんぢエルサレムにやどて、ひところかしこに起󠄃おこりしことどもをらぬか』 19 イエスたま如何いかなることぞ』こたへてふ『ナザレのイエスのことなり、かれかみすべてのたみとの前󠄃まへにて、わざにもことばにも能力ちからある預言者よげんしゃなりしに、 20 祭司長さいしちゃうおよつかさらは、死罪しざいさだめんとてこれわた遂󠄅つひ十字架じふじかにつけたり。 21 われらはイスラエルをあがなふべきものは、このひとなりと望󠄇のぞみゐたり、しかのみならず、こと有󠄃りしより今日けふははや三日みっかめなるが、 22 なほ我等われらのうちのあるをんなたち、われらををどろかせり、すなはかれ朝󠄃あさはやはか往󠄃きたるに、 23 屍體しかばねずしてかへり、かつ御使󠄃みつかひたちあらはれて、イエスはたまふとげたりとふ。 24 われらの朋輩ともがら數󠄄人すにんもまたはか往󠄃きてれば、まさしくをんなたちのひしごとくにしてイエスをざりき』 25 イエスたま『ああおろかにして預言者よげんしゃたちのかたりたるすべてのことをしんずるにこゝろにぶものよ。 26 キリストはかならこれらの苦難くるしみけて、榮光えいくわうるべきならずや』 27 かくてモーセおよすべての預言者よげんしゃをはじめ、おのれきてすべての聖󠄃書せいしょしるしたる所󠄃ところしめしたまふ。 28 遂󠄅つひ往󠄃所󠄃ところむら近󠄃ちかづきしに、イエスなほ進󠄃すゝみゆくさまなれば、 29 ひてめてふ『われらとともとゞまれ、ときゆふべおよびて、れんとす』すなはとゞまらんとてりたまふ。 30 とも食󠄃事しょくじせききたまふとき、パンをりてしくし、きてあたたまへば、 31 かれらのひらけてイエスなるを認󠄃みとむ、しかしてイエスえずなりたまふ。 32 かれらたがひふ『途󠄃みちにてわれらとかたり、われらに聖󠄃書せいしょ説明ときあかたまへるとき、われらのこゝろうちえしならずや』
 175㌻ 
33 かくてただちにちエルサレムにかへりてれば、じふいち弟子でしおよびこれともなるものあつまりふ、〘128㌻〙 34しゅじつよみがへりて、シモンにあらはたまへり』 35 二人ふたりものもまた途󠄃みちにて有󠄃りしことと、パンをたまふによりてイエスを認󠄃みとめしこととを述󠄃ぶ。 36 これのことをかた程󠄃ほどに、イエスそのなか[*]平󠄃安へいあんなんぢらにれ』ひ〕たまふ。[*異本この句を缺く。] 37 かれらおそれて、所󠄃ところのものをれいならんとおもひしに、 38 イエスたま『なんぢらなにこゝろさわぐか、なにゆゑこゝろ疑惑うたがひおこるか、 39 わがあしよ、これわれなり。われでてよ、れいには肉󠄁にくほねとなし、われにはあり、なんぢらのるごとし』 40[*]ひてあしとをしめたまふ〕[*異本四十節を缺く。] 41 かれら歡喜よろこびあまりしんぜずしてあやしめるとき、イエスひたまふ此處ここなに食󠄃物しょくもつあるか』 42 かれらあぶりたるうを一片ひときれささげたれば、 43 これり、その前󠄃まへにて食󠄃しょくたまへり。

44 またたま『これらのことは、がなほなんぢらとともりしときかたりて、われきモーセの律法おきて預言者よげんしゃおよび篇󠄂へんしるされたるすべてのことは、かなら遂󠄅げらるべしとひし所󠄃ところなり』 45 ここに聖󠄃書せいしょさとらしめんとて、かれらのこゝろひらきてたまふ、 46 『かくしるされたり、キリストは苦難くるしみけて、三日みっかめに死人しにんうちよりよみがへり、 47 かつそのによりてつみゆるしさする悔改くいあらためは、エルサレムよりはじまりて、もろもろの國人くにびと宣傳のべつたへらるべしと。 48 なんぢらはこれのことの證人しょうにんなり。 49 よ、われ父󠄃ちちやくたまへるものをなんぢらにおくる。なんぢうへより能力ちからせらるるまではみやことゞまれ』
 176㌻ 

50 遂󠄅つひにイエスかれらをベタニヤに連󠄃れゆき、げてこれしくしたまふ。 51 しくするうちに、かれらをはな[*]てんげられ〕たまふ。[*異本この句を缺く。] 52 かれら[これはいし]おほいなる歡喜よろこびをもてエルサレムにかへり、 53 つねみやりて、かみめゐたり。〘129㌻〙
 177㌻